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第一章・3

 杏は、まるで手品のようにエプロンのポケットからバンダナを出した。  それを三角形に畳み、頭に巻く。  マスクを着け、ビニール手袋をはめ、肩に下げていたバッグから皿と包丁を取り出した。 (包丁なんか持ち込ませたんですか?) (まさかそんなものを持ってるなんて思いませんでしたから!)  副店長と人事部長の小声を聞きながら、真は杏の手先を見ていた。  器用にパイナップルを切り、盛り付ける。  バッグの中には密封容器も入っており、杏はそこからカットされたイチゴやキウイ、リンゴなどを出しては、くりぬかれたパインに上手に飾り付けていった。  最後に、フルーツフォークを出して、できあがり。 「できました!」  その杏の笑顔があまりに良かったので、真は思わず拍手をしていた。 「見事だ。味見をしても?」 「もちろんです、どうぞ」  まずは、パイナップルを口に運んだ。  青過ぎず、熟れ過ぎず。絶妙な風味の、良いパインだ。  次に、リンゴを口にした。  かすかに、レモンの味がする。  色が変わって見た目が悪くならないよう、あらかじめ果汁をかけてあったに違いない。 「美味い」 「ありがとうございます!」  杏は、まるで採用されたかのように喜んだ。

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