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第一章・7

「ここが、私の家だ」 「ひ、広い……」  真は、高級マンションに独りで暮らしていた。  家具は必要最小限。  外食が多いので、キッチンはほとんど使わない。  シャワーだけで済ませるので、バスタブは未使用に近い。  寝るためだけに帰るような、そんな真のマンションだった。 「寝室は、こちら」 「……」 「どうした?」 「腕が鳴ります!」 「杏くん?」 「こんな素敵なマンション、寝るだけなんてもったいないです!」  僕が、生活の楽しさを店長さんに提供して見せます、と鼻息の荒い杏だ。 「ま、まぁ、無理はしないで。ぼちぼちでいいから」  それと。 「それと、私の名前は北條 真だ。『真さん』とでも……」 「解りました、北條さん!」  そのまま寝室に連れ込んで、イイことをしよう、くらいに思っていた真は、出鼻をくじかれた。 「まずは、お掃除をさせてください!」 「あ、掃除機とか、無い……」 「無いんですか!?」  何だか自分が悪いことでもしたような気にさせられる、真だ。 (気軽に囲うつもりだったが、そう容易くはいかないようだ)  だが、それも悪くない。  さっそくスマホで掃除機を検索する杏の姿に、真はにっこり微笑んだ。

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