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第二章 初めてのキス
勝手に動き回るロボット掃除機を、杏は物珍しそうに観察していた。
「これでホントに、きれいになるんですか?」
「確かめたことはないが、気休めにはなる」
それでも、新しい掃除機を欲しがる杏だ。
「僕のお給料から、代金を引いていただいても構いませんから」
「そういうわけには、いかない」
真は、一枚のクレジットカードを杏に手渡した。
「家事に必要なものは、これで買いなさい」
「え、でも。たくさんあります」
「たくさん? 例えば?」
杏は掃除機、食洗器、スチームアイロンなどの家電のほかに、ハンディモップ、ふきん、調理器具などの雑貨を挙げた。
「他にも……」
「いいよ、もういい。大丈夫だから、何でも好きなものを買うといい」
そんなやり取りをしているうちに、時間が過ぎてしまった。
真は、バーに戻らなくてはならない。
「私は仕事に行くけど、君はここで好きに過ごしていなさい」
「雑貨を買いに出てもいいですか?」
「それもそうか」
合鍵を杏に手渡し、真はその肩に手を置いた。
「期待してるぞ」
「僕、頑張ります!」
本当は、期待しているのはベッドの方なんだが。
苦笑いを残し、真は出社した。
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