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第三章・4

(おかしいな、この私が)  初めての子の純潔を、この手で奪ったことはある。  泣いても構わず、引き裂いてきたことは何度でもある。  それがどうして、杏に限ってためらった? (多分、パイナップルのせいだ)  面接に、いきなりパインを手にして現れた、無垢な少年。  この子は、今まで出会ってきた人間とは違う。  本能的に、真はそう感じていた。  それから。 (おじいちゃんに、化けて出られたら困るからな)  口の端を上げ、そのまま寝入った。  小さくて細い杏の体を腕に抱き、真は眠った。 (どうしよう。まだ、ドキドキしてる)  杏は真の腕の中で、目を閉じたまま体を火照らせていた。  初めて、キスしちゃった。 (北條さんは、僕のことが好きなの?)  好きだから、キスしたんだろうか。 (嫌いじゃないよね。嫌いだったら、キスしないよね)  じゃあ、僕は?  僕は、北條さんのことを……? (好き。多分)  彼の腕の中は、こんなにも温かい。 (好き。絶対)  そのまま、杏は夢の世界へ流れて行った。  久しぶりに、おじいちゃんの夢を見た。

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