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第三章・5
昨夜は午前3時過ぎに休んだというのに、真は朝7時には起き出した。
彼は就寝がどんなに遅くなっても、必ずこの時刻には起床するのだ。
「……あれ?」
だが、隣ですやすや眠っていると思っていた杏の姿が、無い。
まさか、と思いキッチンへ行ってみると、果たしてそこには、エプロン姿の杏が立っていた。
「おはようございます!」
「いや、もう少し寝ててもよかったのに」
「朝食の準備、できてます」
「私は、朝は食べないんだがな」
それでも薫り高いコーヒーと、焼き立てのパンの香りは心地いい。
身支度を済ませ、真はテーブルに着いた。
「コーヒーで良かったですか? 紅茶もありますけど」
「私はコーヒーが、好きだよ」
テーブルの上には、コーヒーにサラダ、ベーコンエッグにボイルしたソーセージ。
フルーツの入ったヨーグルトに、ほうれん草のクリームスープ。
そして、温かなパンケーキがあった。
「パンと思ったが、パンケーキだったのか」
「焼きたてを、食べていただきたくて。それで」
もしよかったら、ホームベーカリーを買って欲しいんですが。
そんなことを言う杏が、殊勝だ。
「昨日も言った通り、カードで好きなものを買っていいんだよ」
「高価なものなので。できれば、一緒に選んでいただきたいんです」
ホームベーカリーは、そんなに値の張るものだったか?
だが、杏と共に商品を選ぶことは、楽しそうだ。
真は、朝食の後でそうする約束をし、素敵な料理を平らげた。
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