30 / 164

第四章・8

 なぜだか、無性に杏の顔が見たくなっていた。  詩央と体の関係を持ったことに、罪悪感を覚えたわけではない。  私は、いつも独り。  一度に三人と、付き合ったことだってあるのだ。  だが、誰にも自分を縛らせずに来た。  恋人だなんて、作らないで来た。  だがしかし。 (杏くんを墜とす前に、詩央くんと寝ちゃうとはな)  手近なΩで性処理をするような、そんな自堕落なαになってしまった気がしていた。  早く。  早く、会いたい。 「待ってろよ、杏くん。今夜は少しだけ、大人にしてやるからな」  そんな高揚感を身にまとわせ、真は自動車を走らせていた。  逸る心も、走らせた。

ともだちにシェアしよう!