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第五章・2

「北條さんが、一方的にしてきたから、今のは無しです!」 「じゃあ、今度は杏くんからしてくるといい」 「え……」 「待ってるから」  それきり黙って、柔和な笑顔で杏を見る真の目は優しい。 「えっと……」 (僕から、キスとか。まだ恥ずかしいのに)  それでも、真に惹かれる。  引き寄せられる。  α男性の持つ、波動のようなものを、杏は感じていた。  言うことを聞かざるを得ないような、絶対感。  征服者の持つような、圧倒感。  杏はそれから逃れようと、必死になった。 「あの。北條さん、会社で何かあったんですか?」 「ぅん?」 「急に、こんな。何だか、変です」 「あったな。良いことが」  良いこと。  何だろう。 「杏くんと同じ日に採用になった、Ωの詩央くん。彼と、寝た」 「ね、寝た!?」  寝るというと、二人でぐうぐう眠ったわけではないだろう。  幼い杏にでも、それくらいのことは解る。

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