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第五章・3

「久々に悦かったなぁ。詩央くん、テクニックも充分だったし」 「テクニック、って」 「フェラしてくれた。あ、彼の方からだぞ? ノリノリだったな」  スキンはちゃんと付けたから、などと気休めにもならないことをべらべら喋る真だったが、それを聞いていた杏の瞳から、涙が流れた。 「お、おい? どうした?」 「北條さんは、ひどいです……」  なぜだ。  なぜ、杏くんは泣く?  それに、私がひどい、とは!? 「僕とお風呂に入ったり、キスしたりしてるのに、他の人と……!」 「おいおい。別にひどいことはないだろう。私は、君の何だ?」 「……恋人だと思ってました」 「!?」  真は、口をぽかんと開けた。  まさか、セックスもしていないのに、恋人認定されていたとは! (いや、しかし)  涙をぽろぽろこぼす杏の姿に、真の胸は痛んだ。

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