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第六章・5
「セーター、ブラウンとグレー、どっちがいいだろ」
それとも着まわしのきく、ブラックにしようかな?
鏡の前で顔映りを試していると、スタッフがやってきた。
「お客様は、いつもシックな色味をお選びですか?」
「え? あ、はい」
「このアプリコット、とてもお似合いだと思いますが」
手渡されたセーターは、オレンジより柔らかめの落ち着いた暖色だった。
「あ、あの! 少し派手過ぎないですか?」
「よかったら、御試着を」
試着室にセーターと一緒に押し込まれ、杏は仕方なくそれを着てみた。
「お客様、よろしいですか?」
「はい」
カーテンが開けられ、スタッフが靴を揃えてくれる。
外へ出た杏は、改めて鏡で全身を眺めた。
(あ、何か、いい!)
「やはり、お似合いです!」
スタッフも、嬉しそうだ。
「これですと、お手持ちのコートの色にも合いますよ」
「ありがとうございます。じゃあ、これをいただきます」
こんな派手なセーター、着たことない。
(真さん、びっくりするかな?)
杏は今まで着ていた白いセーターを包んでもらい、新しいアプリコットの上からダッフルコートを羽織った。
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