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第六章・7

「遠田さん。今から、人と会いますんで」 「解ってるよ。情夫とでも待ち合わせてるんだろ。野暮はしねえよ」  俺はただ、あの返事を訊きたいだけだ、と遠田は言う。 「俺の組に、来い。悪くはしねえ。ちゃんとした肩書も、用意してある」 「ありがとうございます、遠田さん。しかし、せっかくですがお断りします」  ケッ、と遠田は鳥のような声を吐き、笑った。 「やっぱり、そう簡単にはいかないか。一匹狼の半グレ北條、だからなぁ!」 「すみません」  いいんだよ、とそこまでで遠田は席を立った。 「また、訊くからな」 「何度訊かれても、答えは同じですが」 「心変わりが、あるかもしれねえだろ」  ああ、それから。 「それから、店に新しいスタッフが入ったって? やけに可愛い子だそうじゃねえか」 「まあ、そこそこに。真面目に働いてくれてますよ」 「今度、面を拝みに行くからよ」  片手をふらりと上げ、遠田は店を出て行った。 「まさか、遠田さんと会うとはな」  相変わらず、一度に提示する情報量の多い人だ。  組に入らないか。  はっきり断ったはずだが、返事は保留。  何度でも訊く、ということは、そう簡単にはあきらめてはくれなさそうだ。  そして。 「詩央くんのことが気になってる、と」  客としてバーに顔を出す日は、近いだろう。  もてなしの準備を、整えておかなくてはならない。 「せっかくのデート気分が、台無しだ」  遠田の存在は、真にとって頭の痛いことだった。

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