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第七章 大切な杏のために

「お待たせしました!」  カフェに真の姿を見つけた杏は、駆け寄った。 「やあ、……杏!?」  彼は、明るいアプリコットのセーターを身に着けている。  はつらつとした笑顔は、それを着た杏をさらに魅力的に見せていた。 「買ったのか? デートのために」 「少し、おめかししたくなって。それで」  ああ、もう!  この場でキスして、そのままホテルに連れ込みたい!  そんな衝動を抑え、真は笑顔で褒めた。 「いいよ。すごく似合ってる」 「真さんも、カッコいいです」 「解るか?」  少し伸びていた髪は、さっぱりと整えられている。  一番いいスーツに合わせて、新しいシャツとタイが身に付けられている。  そして……。 「真さん、良い匂いがします」 「香りにまで気づいてくれるとは」  頑張った甲斐があった、と真はメニューを杏に差し出した。 「好きなものを、選んで」 「え、でも」 「もう少し、ゆっくりしたいんだ」  今、この界隈を歩くと、遠田に出会うかもしれない。 (杏を、遠田さんに会わせたくないからな)  遠田が、可愛らしい杏を気に入る可能性は大いにあった。

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