47 / 164
第七章・2
遠田に、杏をよこせ、と言われればそれまでだ。
(極道相手に、戦争になる)
そこまで考え、真は我に返った。
(極道相手に、戦争?)
いや、違うだろう。
はらわたを煮やしながら、杏を差し出すんじゃないのか?
現に、今までにもそんなことがあった。
真の連れた情夫を、遠田はよく欲しがった。
『ちょっと借りるだけだ。一回だけ、な!』
そんなことを言って、真の手から美しい花々を取り上げては踏みにじった男だ。
おそらく、遠田はわざとやっているのだ。
他人のものを欲しがる気質の上に、それが美丈夫の真が囲う情夫となると、半ば嫌がらせで奪い去る。
そして今まで、真はそれに従ってきた。
恋人ではない、ただのペットだから、私が傷つくこともない。
そんな風に、受け流してきた。
ところが、だ。
「戦争、か」
杏を奪われるとなると、歯向かう気でいるのか? 私は。
ともだちにシェアしよう!