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第八章 僕は真さんの恋人になれましたか?

「うわぁ! 素敵!」  ホテルの部屋から夜景を見た杏は、思わずそう歓声を上げていた。  流れる光の川のような、自動車のライト。  ビルやタワー、繁華街の明かり。  そして、住宅地の灯火。  満天の星々のような輝きは、どれも温かに見えた。  そっと背後から抱き寄せてくれる真にも、杏は自然に身を任せていた。 「この明かりの一つひとつの下に、人が暮らしているんですね」 「そうだな」 「皆、幸せだといいな」  そんな杏の言葉は、真の胸を打った。 「君は? 私は今、杏を幸せにしてあげているんだろうか」 「僕は、とっても幸せです」 「良かった」  他人の幸せを願う心を持つ、清い子だ。  真は黙ってそっと、彼から離れた。 「私は先にバスを使うから、杏はしばらく夜景を楽しむといい」 「お風呂、一緒にじゃないんですか?」 「たまには、いいさ」  そう言い残し、真はバスルームへ消えた。

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