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第八章・3

「真さんは、ああ言ってくれたけど」  杏はバスタブに浸かりながら、自分の腕を撫でた。 「ホントはきっと、エッチしたいんだよね」  こんな僕の、痩せた小さな体。  どこがいいんだろう。  でも今日は、楽しかった。  ホントに、恋人になったみたいな日を過ごせた。 「恋人。僕は、僕たちは、恋人になったのかな?」  真さんは、僕を恋人と認めてくれたのかな。  杏は、そっと指先で自分の乳首を転がしてみた。 「ん……」  じんじん痺れてくるような、変な感じ。  真さんがすると、もっと。  もっと……。 「気持ち悦い、のかな。僕、あの時には、気持ち悦いって感じてるのかな」  多分、他の誰かが同じことをやっても、気持ち悪いだけだ。  真さんだから、気持ち悦いんだ。 「恋人、だから」  訊いてみよう、真さんに。 「僕は真さんの恋人になれましたか、って訊いてみよう。そして、もし」  もし、そうだよ、って返事をくれたら、その時は。  その時は……。  きゅっ、と唇を結んで、杏はバスタブから出た。

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