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第八章・5

「……真さん」 「何だ、眠ったんじゃなかったのか」  そんなに素早くは眠れません、と笑った後、杏は瞼を閉じたまま話しかけた。 「今日、デートしました。ショッピングしたし、映画も見たし、お料理もおいしかったです」 「そうだな」 「夜景も……、素敵でした」 「うん」  そこで、杏は目を開いた。 「僕、恋人になれましたか? 真さんの恋人に、なれたんでしょうか」 「そんなことを気に病んでいたのか」  心配しないで、と真は杏の頬に手のひらを当てた。 「君が私のことを『真さん』と呼ぶようになってからこっち、杏はずっと私の恋人だから」 「真さん」  杏の目から、涙が一粒こぼれた。  泣きはらした、赤い目の涙ではない。  喜びの、きれいな涙だった。 「キス、してもいいですか?」 「いいよ」  真は、そっと目を閉じた。  瞼にではなく、唇に柔らかな感触が、押し付けられてきた。

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