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第十章 疫病神・遠田

 12月に入り、街にはクリスマスソングが流れるようになってきた。  そんな折、一人の男がやって来た。 「よぅ。どうだ、景気は?」  芝居がかったセリフと共に、遠田が真のもとに現れた。  真が雇われ店長を務める、ボーイズ・バー『キャンドル』。  彼は、そこのオーナーだ。  そして、極道『遠田組』の組長でもあった。 「遠田さん、お待ちしてましたよ」  笑顔で出迎える、真だ。 「カフェでお会いした以来ですね。おもてなしの用意をしておきました。どうぞ」 「おぉ、悪いな」  いい顔はしているが、真はこの遠田が苦手だった。  いや、苦手と言うのはずいぶん柔らかい表現だ。 (正直なところ、私はこの男が嫌いだ)  いつも連絡もなしに現れては、さんざん飲み食いをする。  予約の入っているスタッフも構わず、指名する。  しかも、一晩に数人だ。  午前0時になっても、居座り続ける。  スキンも付けずに、中出しをする。  遠田は真にとって、キャンドルにとって、疫病神なのだ。

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