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第十章・2
「新しく入った子ってのに、会わせろ。検品してやるからよ」
「詩央くんですね。しかし彼は人気があって、今夜は……」
「オーナーが会わせろ、って言ってるんだぜ!?」
また始まった、と真は心の中で眉間に皺を寄せた。
(こじらせると、この店を畳む、などと言い出すからな。この人は)
急に閉店でもすれば、困るのは従業員たちなのだ。
店長としては、それだけは避けたい。
真は仕方なく、遠田をVIPルームへ放り込み、料理や酒やカラオケを与えておいて、詩央に内線をした。
『はい。詩央です』
『詩央くん、すまない。今夜はあと何人の予約が入ってる?』
『二名様ですが』
『お断り、できないかな。私がお客様に、お詫びの電話を入れるから』
詩央は驚いた。
真がこんなことを言い出すのは、初めてだからだ。
(お断りして、どうするのかな)
まさか、その後に北條さんとデート、とか……。
しかし、そんな都合の良い妄想はすぐに揉み消され、詩央は遠田の存在を知らされた。
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