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第十章・4

「もしかして、その家政夫Ωくんと……?」  真と、一緒に住んでいるのである。  あれから時も過ぎたことだし、彼とも寝たのかもしれない。  そして詩央は、以前聞いた真の言葉を思い出した。 『ホントにウブな、未経験の子でね。ま、気長にやるさ』  そう。  その時、詩央は真が杏を心から大切にしていることを悟ったのだ。 「僕はもう、手遅れってこと? 北條さんは、僕とは付き合えないの?」  そんな。 「一目で恋に落ちたのに。わざと発情して、あんなに尽くしたのに」  どうしよう。  心が乱れる。 「今から、オーナーを接待しなきゃならないのに」  詩央は、鏡を見た。  情けない、顔。  両手のひらで頬を軽く叩き、気を引き締めた。 「北條さんの顔に、泥を塗るわけにはいかないから」  そして、これが済んだら本当にマンションにお邪魔してみよう。 「家政夫Ωくんがどんな子か、見届けなきゃ」  取るに足りない相手なら、その時は。 「北條さんを、奪ってやるから」  そして詩央は、VIPルームへ向かった。

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