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第十章・8

 遠田の去ったVIPルームに、真がそっと入って来た。  ベッドには、呆けたように詩央がしゃがんでいる。 「お疲れ様。まずは、シャワーを浴びてきなさい」 「北條さん」  どっと、詩央の目から涙があふれた。 「北條さん、僕。怖かったです、僕……!」 「嫌な役目をさせたな。すまない」  部屋は片付けておくから、お風呂に入っておいで。  そんな優しい言葉を、真は詩央にかけた。 「北條さん、僕がお風呂から出るまで、ここに居てくれますね。黙っていなくなったり、しませんよね?」 「大丈夫。ちゃんと待ってるから」  嗚咽を漏らしながらバスルームに入っていく詩央を見送り、真は唇を嚙んだ。 「何とかしないと、な。あの野郎、少し調子に乗り過ぎだ」  このままでは、いつまでもスタッフが奴の毒牙にかかり続ける。  そして。 『そういえば、北條。お前、家政夫と住んでるんだって? 今度、会わせろよ』  こんなことまで、ほざきやがった。 「杏だけは、奴に汚させるわけにはいかない」  心の中で決意を固め、真は詩央がバスから上がるまで片づけを始めた。 「店長、私たちでやりますから!」  入って来たスタッフが、声をかけてくれる。 「ありがとう。でも、私のけじめでもあるからね」  黙々と、真は荒れ果てた部屋を片付けた。

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