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第十一章・2
詩央の看病をしながら、杏は真に問いかけた。
「一体、どうしたんですか? 風邪でもひかれたんですか?」
「それが。店で、たちの悪い客を相手にしてな」
体と心、両方にショックを受けて、ストレスで発熱してしまったらしい。
そう、真は説明した。
「詩央くんは、一人暮らしなんだ。とても放っておけなくてね」
「そうだったんですか」
詩央、という名に、何かひっかかる。
(初めて聞いた名前じゃない、と思うけど……)
「あ!」
「な、何だ?」
「え、いえ。何でもないです。それより、真さんお風呂に入ってきてください」
「しかし、詩央が」
「詩央さんは、僕が責任をもって看病してますから」
杏の言葉に安心したのか、真はバスルームへ消えた。
残されたのは、詩央と杏の二人だ。
杏は、詩央の記憶を手繰っていた。
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