76 / 164

第十一章・2

 詩央の看病をしながら、杏は真に問いかけた。 「一体、どうしたんですか? 風邪でもひかれたんですか?」 「それが。店で、たちの悪い客を相手にしてな」  体と心、両方にショックを受けて、ストレスで発熱してしまったらしい。  そう、真は説明した。 「詩央くんは、一人暮らしなんだ。とても放っておけなくてね」 「そうだったんですか」  詩央、という名に、何かひっかかる。 (初めて聞いた名前じゃない、と思うけど……) 「あ!」 「な、何だ?」 「え、いえ。何でもないです。それより、真さんお風呂に入ってきてください」 「しかし、詩央が」 「詩央さんは、僕が責任をもって看病してますから」  杏の言葉に安心したのか、真はバスルームへ消えた。  残されたのは、詩央と杏の二人だ。  杏は、詩央の記憶を手繰っていた。

ともだちにシェアしよう!