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第十一章・3
詩央さんという名を、僕は以前に聞いたことがある。
それは、真さんの口から出た言葉だ。
『杏くんと同じ日に採用になった、Ωの詩央くん。彼と、寝た』
『久々に悦かったなぁ。詩央くん、テクニックも充分だったし』
『フェラしてくれた。あ、彼の方からだぞ? ノリノリだったな』
そう。
僕がまだ、真さんの恋人になる前に……。
「詩央さん、真さんとエッチしたんだ」
そう思うと、複雑な気持ちが湧いてくる。
心が、揺れる。
だけど……。
「う、うぅ」
詩央が、うめいた。
杏は、急いで冷たいタオルを彼の額に乗せた。
「こんなに苦しそうな人を、放っておけないよ」
可哀想に。
ひどいお客様を相手に、無理をしたんだ。この人は。
杏は、ただ一心に詩央の回復を願った。
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