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第十一章・5

 真と杏は、一緒に詩央の様子を見ていた。 「杏、君はもう寝なさい。後は私が」 「真さんこそ、眠ってください。疲れたでしょう?」  そんなことを言い合いながら、心配な眼差しで詩央を見ていた。  しかし、詩央くんが杏の手を離さないとはな)  てっきり、私にすがってくると思っていたが。    詩央の好意は、解っていた。  ほとんど毎日、店で顔を合わせるのだ。  また抱いて欲しい、とあからさまな誘惑を受けることもあった。  だが、杏を恋人と決めてからの真は、節度を守っていた。 「詩央くんは、あくまでスタッフだから、ね」  そう言って、誘いを断っていた。 「……詩央さんは、真さんのことが好きなんですよね」 「え!? いや、それは」  ぽつりとこぼした杏の言葉は、真を慌てさせたが、すぐに立ち直った。 「うん。この子は、私のことが好きだ」  だがね、と続けた。 「私は、杏のことが誰より好きなんだよ。だから、詩央くんの願いはきけない」 「嬉しいけど、悲しいです」  真が詩央と寝た話を聞いた時、胸がつぶれるほど辛かった。 (今、同じ思いを、詩央さんは味わっているんだ)  そう思うと、手放しで喜べなかった。

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