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第十一章・6
あさりのお粥に、すりおろしたリンゴ。
湯葉のお吸い物に、クリームヨーグルト。
詩央のために、杏は朝食を用意した。
「食べられますか?」
「うん。いただくよ」
ありがとう、と詩央はおとなしく食事を口にした。
どうせ少ししか食べられないだろう、と思っていたが、予想に反してスムーズに胃に運ばれていく。
「美味しい。すごく、美味しいよ」
「良かった」
食べ終えた後は、体がぽかぽかと温まって来た。
「北條さん。僕、シャワーを使ってもいいですか」
「もちろんだ。ゆっくりバスタブにも浸かるといい」
詩央はシャワーの後、バスタブに身をゆだねながら昨夜のことを思い返していた。
「あんなにひどい目に遭ったのに」
なぜか、その凄惨な記憶にフィルターがかかっている。
北條さんのマンションに、泊めてもらったから?
北條さんのベッドで、眠ったから?
「いや、違う」
悪夢に怯え、逃げ惑う僕の手を、しっかり握って離さないでいてくれた人のおかげだ。
「そしてそれは、杏くんなんだ」
ほぅ、と詩央は大きく息を吐いた。
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