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第十一章・8

 バスから出てきた詩央は、すっかり元気を取り戻していた。 「杏くんの、おかげだよ」 「僕、何にもしてません」  こういう謙虚なところも、素敵だ。 「北條さん、杏くんは素敵な人ですね」 「え? ああ、そうだな」  てっきり、詩央が杏に敵愾心を燃やすかとハラハラしていた真だ。  予想外の展開に、喜んだ。 「発情期、まだだそうだけど。最近、体調は?」 「特に、変わったことはありません」  心配だなあ、と詩央は手を腰に当てた。 「北條さん、発情期もまだの少年を、毎晩いじめてるんですね? この人でなし」 「あんまりな言われようだな!」  それにはいたずらっぽい笑顔で応え、詩央は改めて杏に向き直った。 「Ω同士、仲良くしてね。解らないことや、困ったことがあったら、何でも相談して」 「ありがとうございます!」  ああ、何だかお兄さんができたみたい!  杏は、友好的な詩央に喜んだ。  詩央のまなざしは、とても優しく慈しみ深いものだった。

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