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第十二章 僕、詩央さんに訊きたいことが……。
「いけません、店長。12月24日は、オープンの方向で行きましょう」
「しかし、クリスマスだぞ? お客様、ほとんど来ないんじゃないのか?」
会議では、来るクリスマス・イヴの開店について揉めていた。
「12月のシフトは、すでに出ています。ほぼ全員出勤で、固めています」
「今からでも遅くない。臨時休業にしよう」
おかしいですね、と営業部長はいぶかし気な顔を真に向けた。
「昨年は、こんな我がままを言う人ではなかったはず」
「昨年と今年では、違う」
そう。
今年の真には、杏という可愛い恋人ができたのだ。
二人きりで、聖夜を過ごしたい。
そんな極めて自分勝手な理由で、子どものように駄々をこねているのだ。
「スタッフには、恋人や家族とイヴを過ごしたい、と思っている子もいるんじゃないのか?」
「それはまあ、そうですが」
しかし、と営業部長は手強い。
「クリスマスは本来、宗教行事。信者でもない人間が、祭事を理由に仕事を休むのは、やはり無理がありますよ」
「うぐぐ……」
そんな不毛なやり取りが交わされている頃、杏は重箱を手に『キャンドル』を訪れていた。
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