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第十三章・3
「店長、大変です!」
事務所に入るや否や、営業部長が真に泣きついてきた。
「どうした?」
「遠田さんが、今夜ここに来ると言ってます!」
「何だって!?」
どこから漏れたんだ。
いや、今はそんなことより……。
「今夜は、きっぱりお断りするぞ。せっかくの企画が、台無しだ」
「わたくしも、電話で何度もお伝えしたのですが」
すでにこちらに向かっている、という。
真は、舌打ちした。
「遠田のやつ、イヴを一緒に過ごす相手くらい、いないのか?」
「それが、『キャンドルの男全部が、俺の情夫だ』、などと言いまして」
「冗談じゃない」
そんなことをほざくようなら、今夜全てのスタッフを抱くつもりでいるに違いない。
そして何より。
(杏が、真っ先に犠牲者になる!)
遠田とは、初顔合わせの杏だ。
この子はスタッフではない、と言い張っても、無理やり個室に連れ込むだろう。
「それだけは、許さん」
「あの。真さん? どうかしたんですか? 何か、困りごとですか?」
「あ、いや。杏は、心配しなくてもいい。先に、詩央くんのところに行っててくれ」
「はい……」
杏は、かつて通されたことのある、スタッフ休憩室へ向かった。
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