96 / 164

第十三章・7

「さあ、皆。そろそろ開店だ。クリスマスパーティーが始まるぞ」 「真さん」 「北條さん」 「店長」  皆、それぞれに口を開いたが、その表情は不安げだ。 「ど、どうした? みんな」  誰も口を開かなかったが、杏が思いきったように伝えた。 「真さん。遠田さんが来ると聞いて、皆さん動揺してらっしゃいます」 「知ってたのか……」  まぁ、急にその面を見て嫌になるより、事前に解っていた方が心の準備も整う。 「確かに遠田さんが来るらしいが、それに心配は及ばない。私がきちんと対処するよ」  今夜は、遠田さんにはすぐにお引き取り願う。  真のきっぱりとした言葉に、一同の緊張はややほぐれた。 「でも、そんなことできるんですか?」  遠田の怖さを、一番最近知った詩央が、恐る恐る訊ねた。 「大丈夫。私に、策がある」  うまくいけば、遠田さんはカクテル一杯飲まずに、帰ることになるだろう。  自信たっぷりの真に、空気はようやく動き始めた。 「じゃあ、安心して仕事ができます」 「店長、頼りにしてますよ!」 「さ、エントランスへ行こう」  スタッフは息を吹き返したように陽気になり、休憩室を出て行った。  残るは、真と杏のみだ。 「真さん、危ないことはしないでくださいね?」 「私に任せて、杏も楽しんでくれ」  さぁ、行こう。  真は、杏の肩を抱いて部屋を出た。  決意を込めたクリスマスパーティーが、始まった。

ともだちにシェアしよう!