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第十四章・5

 スーツのジャケットを若い者に渡し、遠田はシャツの袖をまくった。 「遠田さん、私のタイを貸しましょう。拳に巻いてください」 「お前を殴って痛めるような、やわなゲンコツじゃねえよ」  覚悟はいいな、と遠田はまず思いきり真を一発殴った。  カッコよく一撃で沈めるつもりだったが、真は両足で立っている。 「ちッ!」  2発、3発、殴った。  だが、真は涼しい顔をして立っている。 「そのすかした面、グチャグチャにしてやるぜ!」  何度も顔を殴られ、真の口から血が流れる。  続けざまに殴られるので、足元がぶれる。  だが、その心は折れず、信念はぶれない。  とうとう遠田は、持ち玉の10発を使い果たしてしまった。 「しぶとい奴だ」 「遠田さん、息が上がってますよ」  では、と真は口元の血を手でぬぐった。 「今度は、こちらから」 「1発、だったな。俺が立ってたら、この店で好きにさせてもらうぜ?」 「どうぞ、ご自由に」  言葉の終わらぬうちに、真は素早く遠田の懐に潜り込んだ。  畳んだ腕を、低い位置から一気に突き上げる。  見事なアッパーは、遠田の顎をとらえて跳ね上げていた。

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