102 / 164

第十四章・6

「おやっさん!」 「組長、しっかり!」  吹っ飛ばされ、床に突っ伏した遠田を、若い者が必死で助け起こす。  しかし、遠田に意識はなかった。  顎は、人体の急所の一つだ。  そこをしたたかに打たれ、脳まで揺さぶられた。  遠田は、脳震盪を起こして失神してしまったのだ。 「気を失ってるだけだ。連れて帰ってくれ。大丈夫とは思うが、念のためレントゲンで顎の骨を診てもらえ」  バタバタと慌てふためいて、組員たちは遠田を担いで店から出て行った。 「やったやった!」 「店長、強い!」 「大丈夫ですか、北條さん!?」  スタッフと詩央に囲まれて、真は痛む唇をゆがめて笑顔を作った。 「さ、今度こそオープンだ。皆、今夜もよろしく頼む」  ようやく一般客が入り始め、エントランスは賑やかになっていった。 「真さん、手当てをしないと」 「そうだな。杏、お願いできるか?」  そんな二人に、詩央が休憩室を勧めてくれた。 「あそこなら、救急箱も置いてあります。仮眠できるベッドもあるし」 「寝込むほどのケガじゃないがな」 「いいから。行きますよ、真さん」  杏に腕を引っ張られ、真は休憩室に入った。

ともだちにシェアしよう!