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第十四章・6
「おやっさん!」
「組長、しっかり!」
吹っ飛ばされ、床に突っ伏した遠田を、若い者が必死で助け起こす。
しかし、遠田に意識はなかった。
顎は、人体の急所の一つだ。
そこをしたたかに打たれ、脳まで揺さぶられた。
遠田は、脳震盪を起こして失神してしまったのだ。
「気を失ってるだけだ。連れて帰ってくれ。大丈夫とは思うが、念のためレントゲンで顎の骨を診てもらえ」
バタバタと慌てふためいて、組員たちは遠田を担いで店から出て行った。
「やったやった!」
「店長、強い!」
「大丈夫ですか、北條さん!?」
スタッフと詩央に囲まれて、真は痛む唇をゆがめて笑顔を作った。
「さ、今度こそオープンだ。皆、今夜もよろしく頼む」
ようやく一般客が入り始め、エントランスは賑やかになっていった。
「真さん、手当てをしないと」
「そうだな。杏、お願いできるか?」
そんな二人に、詩央が休憩室を勧めてくれた。
「あそこなら、救急箱も置いてあります。仮眠できるベッドもあるし」
「寝込むほどのケガじゃないがな」
「いいから。行きますよ、真さん」
杏に腕を引っ張られ、真は休憩室に入った。
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