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第十六章・2
「杏も、私に屠蘇を注いでくれ」
「どうかしたんですか?」
焦った風の真に、杏は杯を渡した。
「いや、ちょっと。考え事を」
「そうだ、真さん。おせち食べたら、初詣に行きませんか?」
「うん? いいな、それは。そうしよう」
終いには、屠蘇にむせて咳き込む真だ。
大丈夫ですか、と杏は真の背中をさすった。
その優しい仕草に、真の想いは膨らむ一方だ。
(杏が、生涯のパートナーになってくれれば)
どんなにいいか。
きっと、実りある人生になるに違いない。
しかし……。
(半グレ者の私だ。清らかなこの子を我が手にするには、気が引けるな)
「真さん。真さん、ってば!」
見ると、杏がおせちを皿に取り分けてくれている。
「食べてみてください。腕を振るいました!」
「ああ。これは美味そうだ」
浮かんでは弾ける想いはひとまず置いて、真は久々の家庭的な正月を味わった。
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