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第十六章・3
神社は、思っていたより混んではいなかった。
「よかった。人にもまれるのは、好きじゃない」
「でも、迷子になりそうです」
離れるなよ、と真は杏の手を取った。
「あ……」
嬉しいな。
はしゃいで、その腕にしがみついてしまいたい。
そんな想いを抑え、杏はただ真の手を握り返した。
はたから見ると、幸せそのものの二人だ。
そして、そんな真を目ざとく見つけた人間がいた。
「北條さん?」
「あ、これは。三村(みむら)さん、明けましておめでとうございます」
三村は、真の店の常連だ。
すらりと背の高い、品のいい顔立ちのイケメン。
それだけでなく、上場企業の社長でもある。
莫大な資産を持ちながら、庶民的な『キャンドル』に通ってくれる。
(まあ、他にも行きつけの高級クラブがあるだろうけどな)
そんな風に、真は考えてはいたが。
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