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第十六章・4
「驚いたな。北條さんが、こんなかわいい子を連れて初詣とは」
「驚いたのは、こちらですよ。お一人ですか?」
「いやぁ。クリスマスで失敗しまして。恋人に、逃げられました」
「二重の驚きです。まさか、三村さんを放って出ていく人間がいるとは」
そんな真の言葉は聞き流し、三村は杏の方ばかり見ている。
「失礼ですが、お名前は?」
「あ、すみません。申し遅れました、津川 杏と言います」
ぺこり、と頭を下げると、栗色の髪が日に透けて輝いた。
(綺麗な子だな)
それに、初々しい。
手練れの情夫ばかり囲ってきた目には、杏はまぶしく映った。
「三村さん?」
「これは失礼。杏くんに、見蕩れておりました」
彼は、キャンドルの新しいスタッフですか?
そんな問いに、真は少々身構えた。
「いいえ。スタッフではありません。私の、大切な人間です」
「そうですか。それは、残念」
(三村さんは、杏がスタッフだったら即指名しているところだな)
そうはいかない。
杏は、私の大切な人間。
真は、ぴしゃりとそう宣言し、三村を退けた。
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