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第十六章・5
初詣の帰りに、真と杏はカフェでお茶を飲んで温まった。
「何だ、おみくじ持ってきたのか?」
「だって、大吉だったんですよ! もったいないから、お財布に入れておきます」
「可愛いなぁ」
「……真さん。さっきの言葉、嬉しかったです」
『いいえ。スタッフではありません。私の、大切な人間です』
「大切な人間、って。すごく、嬉しかったです……」
「ん? あぁ、そうか?」
珍しく、照れている風の真だ。
それより、とカップを置いて杏に改まった目を向けた。
「新年が始まったんだ。杏は、何か新しく始めたいことは、ないか?」
「え? 例えば、何でしょう」
「ジム通いとか、スイミングとか、ゴルフとか」
全部、真の趣味だ。
真は、杏をもっともっと自分の傍に置きたくなっていた。
「じゃあ、料理教室に通いたいです」
「料理!? もう充分に巧いじゃないか」
「全部、自己流ですから。ちゃんと、一からやってみたいんです」
向上心があるなぁ、と真は両手を挙げて見せた。
残念ながら、お手上げだ。
杏には、杏の世界があるのだ。
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