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第十六章・6
松も明け、真と杏は二人そろってマンションを出た。
真は、ゴルフ。
杏は、料理教室へ出かけるのだ。
「杏、がんばれよ」
「ありがとうございます。真さんも」
初めての習い事に、杏は張り切っていた。
「先生、優しいといいな。お友達とか、できるかな」
教室のあるデザインビルに入り、ロッカールームに荷物を置いていると、ふいに声を掛けられた。
「杏くん? 杏くんじゃないか」
「え? あ、三村さん」
初詣で出会った三村が、なぜかここにいる。
「どうしたんですか? まさか、三村さんも料理教室に?」
「そのまさか、さ」
三村は、クリスマスに情夫に逃げられた男だ。
そのわけが、料理だった。
「キッチンで彼が一生懸命に料理をしているのに、私はリビングで呑気に動画なんか見てたんだ」
その姿勢に、恋人は烈火のごとく怒ったのだ、という。
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