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第十七章・3

 真が心配した通り、三村の杏への攻勢は続いた。 『杏くん、どっちが塩で、どっちが砂糖だっけ?』 『杏くん、包丁の角度、これでいいのかな』 『杏くん、ちょっと味見してくれないか?』  こんな具合に、料理教室の間中ぺったりと張り付いては、いろいろと声をかけていた。  そして、教室が終われば、決まってお茶に誘うのだ。 「今日もありがとう。お礼に、お茶を御馳走させてくれ」 「いつもすみません」  杏も、お茶を一緒に楽しむくらいは浮気と思っていなかったので、三村に付き合った。 (真さんのお店の常連さんだ、って言ってたし)  そんな彼の機嫌を損ねてはいけない、との思いもあった。 「今度はお茶じゃなくって、一緒に食事でもどうだい?」 「お食事は、ちょっと。僕、家事がありますから」  忙しくて、外食をしている暇がない。  そんな風に、杏はやんわりとお断りした。 「残念だな。『月雁(つきかり)』の予約、取ってるんだけど」 「え? 月雁!?」  杏の驚いた『月雁』は、有名な高級料亭だ。  予約は三年先まで埋まっており、おいそれと敷居の跨げない一流どころとして知られていた。 「一緒に、月雁の料理を試してみないか?」  杏の心は、大きく揺らいだ。

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