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第十七章・5

「こんばんは、三村さん」 「今夜も綺麗だね、詩央くん」  その日の夜、三村はキャンドルへ現れた。  お気に入りの詩央を指名し、二時間待ってようやく部屋に通された。 「やれやれ、待ちくたびれたよ」 「申し訳ございません」  いや、いいんだ、と三村はご機嫌な様子だ。 「待つのも、いいもんだ。その間、ワクワクしていられるからね」 「どうしたんですか? 何か良いことでも?」  うん、と三村はおしぼりで手を清めながら笑顔で言った。 「デートの約束、ようやく取り付けた。すごくユニークな子でね。今、一番気になる存在なんだ」 「恋多き三村さんのお眼鏡にかなう、って。一体どんな人なんですか?」  それがね、と三村は詩央の耳に口を近づけた。 「北條さんの家の、家政夫なんだ。料理教室で、偶然一緒になってね」  詩央の身に、緊張が走った。 (まさか、杏くんがターゲット!? 北條さんは、このことを知ってるのかな!?)  にやりと笑って、三村は唇に人差し指を当てた。 「これ、北條さんには内緒だよ。彼、独占欲が強そうだから」  どうしよう。  今の三村さんは、大切なお客様。  彼に無礼を働くわけには、いかない。  詩央は、忙しく頭を働かせた。

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