130 / 164
第十八章・4
店外の詩央は、従順な大人しい子ではなかった。
「何を食べようか。カニ料理が美味しい店があるんだけど」
「僕は、スッポン料理が食べたいな」
それには苦笑しつつも、従う三村だ。
「詩央くんの意外な一面が知れて、嬉しいよ」
「そうですか? 僕はいつも、こんな感じですよ」
スッポンの唐揚げを頬張りながら、詩央はまるで口答えでもするかのような返事だ。
そんな彼に、三村は訊ねてみた。
「そもそも、なぜ私をデートに誘ったのかな? 何か考えるところ、ある?」
『三村さん。その子の前に、僕とデートしてもらえませんか?』
『三村さんをそんなに夢中にさせるなんて、少し悔しいな』
こんなことを言って、三村を誘い出した詩央だ。
三村は、少々うぬぼれていた鼻をくじかれた気分だった。
「杏くんに私を取られて、悔しかったんじゃないの?」
途端に、詩央が急にしなだれかかってきた。
「解ってるんなら、意地悪だな。杏くんとのデート、やめてくれない?」
「何だ、すねてたのか。可愛いところ、あるじゃないか」
そうだなぁ、と詩央の髪を撫でながら、三村は唸る。
「杏くんも、可愛いからなぁ。こんなにモテて、困るな」
詩央は、ひそかに眉根を寄せた。
(モテてない、っての。そもそも杏くんは、あなたのことなんか何とも思ってないんだから!)
その後、さんざん尽くしてみせた詩央だったが、三村は頑として杏を諦める、とは言わなかった。
ともだちにシェアしよう!