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第十八章・4

 店外の詩央は、従順な大人しい子ではなかった。 「何を食べようか。カニ料理が美味しい店があるんだけど」 「僕は、スッポン料理が食べたいな」  それには苦笑しつつも、従う三村だ。 「詩央くんの意外な一面が知れて、嬉しいよ」 「そうですか? 僕はいつも、こんな感じですよ」  スッポンの唐揚げを頬張りながら、詩央はまるで口答えでもするかのような返事だ。  そんな彼に、三村は訊ねてみた。 「そもそも、なぜ私をデートに誘ったのかな? 何か考えるところ、ある?」 『三村さん。その子の前に、僕とデートしてもらえませんか?』 『三村さんをそんなに夢中にさせるなんて、少し悔しいな』  こんなことを言って、三村を誘い出した詩央だ。  三村は、少々うぬぼれていた鼻をくじかれた気分だった。 「杏くんに私を取られて、悔しかったんじゃないの?」  途端に、詩央が急にしなだれかかってきた。 「解ってるんなら、意地悪だな。杏くんとのデート、やめてくれない?」 「何だ、すねてたのか。可愛いところ、あるじゃないか」  そうだなぁ、と詩央の髪を撫でながら、三村は唸る。 「杏くんも、可愛いからなぁ。こんなにモテて、困るな」  詩央は、ひそかに眉根を寄せた。 (モテてない、っての。そもそも杏くんは、あなたのことなんか何とも思ってないんだから!)  その後、さんざん尽くしてみせた詩央だったが、三村は頑として杏を諦める、とは言わなかった。

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