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第十八章・5

「デートは失敗だったな……」  親指の爪を噛み、詩央は忌々し気に吐き捨てた。  話の流れに乗って、杏より僕を選んでもらおうとしてみたが、無理だった。 「杏くんとの食事はやめて、僕と約束してくれると良かったのに!」  キャンドルの休憩室で歯噛みしてみても、仕方がない。 「こうなったら!」  詩央は、内線電話をかけた。  相手は、真だった。 「北條さん、今から休憩室に来られませんか?」 『詩央くんか。どうした?』 「大切なお話が、あるんです」 『電話では言えないような?』 「はい」  詩央の声色に、真は胸をざわめかせていた。 「まさか、店を辞めたい、なんて言うんじゃないだろうな」  しかし、詩央の話は彼のことより杏を気遣ってのことだった。

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