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第十八章・7

 どうしよう。  杏は、毎日悩んでいた。 (やっぱり、お食事会のこと真さんに話した方がいいのかな)  だが、言えば必ず反対されるだろう。  料理教室も、辞めさせられるかもしれない。  それは絶対、避けたいところだ。 「真さん」 「何だ?」 「いえ、やっぱり何でもありません」  そうやって、言葉を飲み込む毎日。  真は、そんな杏を悲しく思っていた。 (きっと、三村さんとの食事のことを言えば、私が怒ると思ってるんだろうな)  そんな風に、怖がられるとは思っても見なかった。  彼とは、対等な関係を築きたいと思っていたのに。 (杏の中にはまだ、自分は家政夫で、私は雇い主、という図式が消えずにいるんだろう)  こんな時、どうしてあげればいいんだ? 「杏、ここにおいで」 「はい」  ソファに腰掛けた杏を、真は抱きしめた。 「杏、好きだ」 「僕も真さんが、大好きです」 「愛してる」 「……僕も、です」 (そういえば、まだ一度も杏から『愛してる』とは言ってもらったことがないな)  バレンタインデーには、その言葉が聞けるのだろうか。  三村の影を疎ましく感じながら、真は杏を抱きしめていた。

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