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第十九章・2

「いよいよ決戦ですね!」 「そろそろ、詩央くんの考えを聞かせてくれないかな」 「それは、まだ後で。安心してください、悪いようにはしませんから」 「よろしく頼むよ」  杏と三村より先に店に入り、彼らの隣の個室へ腰を下ろす。  一度、そっと詩央が部屋から出て行ったが、すぐに戻って来た。  息をひそめて待っていると、三村の声が聞こえてきた。 「何でこんなに、よく聞こえるんだ? 防音してあるはずなのに」 「それは、ここに秘密があります」  詩央が手にしたそれは、超小型スピーカーだった。 「さっき、盗聴器を仕掛けてきました」 「本格的だな」  陽気な声で、三村はご機嫌に喋っているようだった。 『ハッピーバレンタイン、杏くん』 『え? あ、ごめんなさい。僕、三村さんにチョコ持って来ませんでした!』 『そうなの?』 『ホントに、ごめんなさい』 『いいさ。ここでこうして会ってくれてることが、何よりのプレゼントだ』 『すみません』  杏が三村のチョコを準備しなかったことに、真は胸をなでおろしていた。  たとえ義理でも、渡して欲しくない。 「良かったですね、北條さん」  詩央が、小さく肘でつついてきた。

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