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第十九章・5

「ちょっと待った!」 「三村さん。杏をどこに連れて行くつもりなんです!?」  突然部屋に駆け込んできた詩央と真に、三村は目を円くした。 「詩央くん!? それに、北條さんも!」  真は三村を押しのけて、杏を抱きとめた。 「大丈夫か、杏」 「真さん……」  瞼はとろんとしているが、その目は情に眩んでいる。 「三村さん、あなたという人は。杏に、一体何をしたんです!?」 「い、いや。そんな、人聞きの悪い。杏くんが発情しかけてるようだから、介抱を」  どうだか、と詩央が三村をにらんだ。 「お料理か飲み物に、薬物を仕込んだんじゃ……」 「まさか。私は、潔白だよ!」  それでは、と真は杏を抱き上げた。 「杏は、私が連れて行きます。いいですね?」 「あ、ああ。もちろんだとも。北條さんが来てくれて、良かったよ」  三村を蹴り飛ばしてやりたい心地だったが、真はぐっと我慢した。  杏の具合の方が、先決だ。  ばたばたと料亭を後にする真の背中を、三村は唇をへの字に曲げて見送った。

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