139 / 164

第十九章・6

「美味しいお料理、食べそこないましたね。三村さん」 「詩央くんまで、そんなことを言う」  正直、と詩央は腰に手を当てて三村をにらんだ。 「何をしようとしてたんです? 北條さんには黙っててあげるから、白状してください」 「うん、まあ。媚薬でね、杏くんを……」  そこまで喋った途端、三村は詩央に頬を平手でぶたれた。 「な、何をする!?」 「最低。人の恋人を、媚薬でものにしようなんて!」 「すまなかったよ。反省してるよ」  この部屋に乗り込んで来た時の、真の真剣なまなざし。  三村は、それを見て心を打たれていた。 「いいね。あんな風に、一人の人を心から愛せるってことは」  しゅん、としおれてしまった三村に、詩央は手を差し伸べた。 「仕方がないですね。じゃあ、行きましょうか」 「行くって、どこへ?」 「デート、してあげます。今日は、バレンタインデーですからね」  独りぼっち同士、仲良くしましょう。 「詩央くん、ありがとう」  三村の濁った目に、光がさした瞬間だった。

ともだちにシェアしよう!