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第ニ十章・4

「大丈夫か?」 「体が、自分のものじゃないみたいです……」  ひくひくと余韻の痙攣に溺れながら、杏は荒い息を吐いている。  真はベッドから降りると、冷たい飲み物を持ってきた。 「飲むかい?」 「あ、ありがとう、ございま……」  ペットボトルを受け取る前に、杏は意識を失ってしまっていた。  後は、安らかな寝息が聞こえるのみ。 「頑張ったからな、杏」  精と体液でぬるぬるの杏の体を、真は優しく拭いていった。 「本当に。君はいつだって私を驚かせてくれる」  髪を撫で、頬に張り付いたおくれ毛を指先で刷いた。 「真さん……」  寝言でも名を呼んでくれる杏が、愛おしくて仕方がない。 「しかし、だな」  結果としてこうやって愛し合うことができたが、あと一歩で三村に横取りされるところだったのだ。  詩央の言葉が、思い出される。 『それから、北條さん。あなたが、しっかり杏くんを捕まえておかないから、こんなことに!』  うん、と真はうなずいた。 「しっかり、捕まえておかないと、な」  一つの決意を胸に、真はバスルームへと歩いた。

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