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第ニ十章・6

 到着したところは、老舗百貨店のジュエリーショップだった。 「いらっしゃいませ。何かお探しですか?」  品のいいスタッフが、真に声をかける。  真は杏に笑顔を見せた後、言った。 「エンゲージリングを、見せてくれ」 「真さん!?」  あの、その、と慌てる杏に、真はまじめな顔を向けた。 「私から君へ、指輪を贈りたい。そしてそれを、いつも薬指に着けていて欲しいんだ」 「真さん……」 「魔除けだよ。三村さんみたいな人が、これからも杏を狙ってくるだろうからね」 「あ、そういう意味で……」  もちろん、大切な意味も込めている、と真は付け加えた。 「だが、それは後ほど。もっとロマンチックなシチュエーションで言わせてくれ」 「はい……」  どうしよう。  ドキドキしてきちゃった。 (真さんが、僕にプロポーズを……!?)  華奢な杏の指にふさわしい、細身の流麗なデザインのリングを、真は選んだ。  美しくラッピングされたそれは、後の出番を待っていた。

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