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第二十一章 幸せへのきざはし
「参ったな」
マンションのリビングで携帯を手に、真はつい口に出していた。
「どうかしたんですか?」
やはり、杏がそれを聞きつけて心配そうに見ている。
「杏をわずらわせたくは、なかったんだけどな」
伏せておくのも他人行儀なので、真は降ってわいた懸念材料を打ち明けた。
「遠田からの、電話だったんだが」
「遠田さん。今頃、ですか?」
普段から素行が悪く、ついには杏にまで手を伸ばそうとした遠田。
昨年のクリスマスパーティーを台無しにしようとしたところを、真に殴られ失敗した。
一発殴られただけで、失神したのだ。
ばつが悪くて、それからはとんと気配を隠していたのだが。
「それが、店を買わないか、と言い出して」
「キャンドルを、ですか!?」
うん、と真は複雑な表情をしている。
ここは喜ぶところなんじゃないかな、と杏は不思議に思った。
「真さん、お店のオーナーになれるんでしょう? それって、いい話なんじゃないですか?」
「私は、店長を辞めようと思っていたところなんだよ」
真の突然の告白に、杏は目を円くした。
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