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温かな存在
生憎の雨。
天気が晴れていてもムカつくけど、雨が降っていてもムカつく。わざと傘を差さずに帰った。なんとなく、そしたら晴れる気がした。
そんなことなかったのだけど。
「慎さん。どうしたんスか。」
帰り路についている僕に声をかけたのは相変わらずのワンコだった。
「ケンタか。」
「なんで濡れてるんスか。」
「終わっちゃったな。いや、始まってすらなかったかもしれない。結局、嫌われて終わった…。」
「そんな…。あれっスか。やっぱりあの男っスか。なんで、なんで…。」
「僕には無理だったみたいだ。振り向かせることなんて出来やしない。知ってたけど、分かってたけど。いつか僕を中心に生きて欲しかった。なんて馬鹿みたいだ。」
「…慎さん。帰りましょう?今日はうちに泊まって下さい。母さんも今日は夜勤って言ってたし。」
「うん。」
ケンタはいつも優しい。
その温もりは僕を温める。今日ばっかしはあの寂しい家に居たくない。
「慎さん、そう言えば、香水つけてくれてないっスよね。酷いっス。」
次の日の朝。散々泣いて目が赤く腫れてしまった。なんとか治らないか試行錯誤していた時、ケンタがひょこっと僕の顔を覗き込んできた。
「持ち歩いてはいるよ。でも、学校につけていくのは不適切でしょ?」
まぁ、本当は彼が嫌がったからというのが大きい。あの香水を貰った翌日にふっていったらその匂いは嫌いだと言われた。いつも無関心な彼が珍しくそう言ったのだ。僕はそれに従うほかない。
「そうっスか?でも、今日はつけて下さい。」
「なんで?」
「いいから、いいから。」
ニコニコと笑いながらポーチに入っていた香水を僕に向かって振りかける。まぁ、もう彼と話すこともない。どうせ終わった関係。彼の好みに合わせる必要もないか。
「やっぱり俺のセンスいいっスね。」
「まぁ、この香りは僕も好き。ありがとう。」
ふふんと鼻を高くするケンタに、少し笑ってしまった。ケンタは本当に可愛い男だ。
「ああ、今日も一緒に帰るっスよ。」
「なんで?」
「なんか嫌な予感がするんで。それに、今日は俺がお泊まりしにいくっス。」
「えっ、なんで。」
「俺と慎さんの仲じゃないっスか。」
布団1枚しかないな。
ちらりと見ると尻尾を左右に振ってキラキラした目でこちらを見ていた。ああ、もちろん尻尾なんてものはないけど。
「いいよ。別に。」
さらに尻尾を振って喜んでいるケンタの頭を撫でた。
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