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第3話 狂曲
「……!」
歯を食い縛って拒絶する。
宍戸はしまいだした。
「やっぱり輪姦しかないかなー」
呆れたように、ポケットに両手を突っ込んで立ち上がり、俺を見下げて宍戸は吐きつけた。部下達が待ってましたとばかりにゲヒゲヒと笑う。
「沼間君!!ここにいたんだ!!」
その時、よく通る一声が響いた。
現れたのは、幹甥彦だった。
息をはあはあ吐いて、いかにも走って俺を探していたような甥彦は、宍戸に毅然と告げる。
「先生が、職員室に沼間君を呼んでるんだ、大至急こいって」
不良達は宍戸も含めてジロりと甥彦を睨みつける。
「先生命令だ、沼間君には来てもらう、さ、沼間君、こっちに」
甥彦が俺の腕を引っ張った。
不良達は俺を拘束する腕に力を入れず、そのままスルスルと抜けていった。
引っ張られるまま俺も走って教室から逃げる。
「せ、先生って?」
「嘘だ、嘘」
甥彦は舌を出して答える。
「ありがとう……」
走りながら、それだけ言うのがやっとだった。
異常な学園。
なぜ従兄弟が消えたのか。
それは異常な学園だから。
1
水道でさっき汚された顔を洗った。
……整理してみよう。
寮に帰って、落ち着いて、考える必要があるはずだ。
寮に入ろうとしたら、玄関の所で、髪の長い、背の高い男に呼び止められた。
どこかギリシャ彫刻のような、古代の神話に出てきそうな美青年だ。
「おまえ……俺に挨拶をせず無視して通りすがるとは良い度胸をしているな」
急に機嫌の悪い声に俺は驚いた。
「寮長の相上 蛍斗 に、入寮の挨拶もせず、なんてな。大した、度胸を、してるじゃないか……」
「っ!すみません、転校して来たばっかで」
「すみません?」
相上は顔を歪めてニヒルに笑った。
「なんだその、心のこもってないヘラヘラしたすみません」
そんなことはないはずだ。
だが相上は因縁を構わずつけてくる。
「そこに手をついて謝れ」
土下座しろと言いたいらしい。
俺は抵抗を訴えた。
「嫌だ」
急に相上の長い足が俺の鳩尾を蹴った。
「ゲホッ!!!?」
倒れ込む。
相上は近付き、上から見下ろして、右足を俺の体に乗せる。
ソロソロっと、奴の足先は固まる俺の体の上を、ゆっくりと移動する。
あろうことか、俺の股間に足の裏が置かれる。
相上はポケットに手を突っ込みながらグリグリグリィッと靴を回し踏みにじった。
「あ゛ーーーーーーッーーーーーーッーーーー!!!」
声にならない叫び。
息が止まる。
息ができない。
はっはっはっと跳ねたくなる、痛み。
目を見開いて涙で滲む俺の頬をガッシと掴み、相上はニヤリと笑って凶悪な表情で言い聞かせる。
「いいか?この寮に帰りたかったら俺に逆らわないことだ」
手を離すと俺の顔に自分の右足の靴底をつけた。
「靴を舐めろ」
激痛に頭がふらつき足がガクガクなりながら、応答無しでいる俺に
「また蹴るぞ、同じ場所……」
びくついて、俺は靴底をペロリと慌てて舐めた。
そのまま俺の顔に靴底をグリグリとしてから、相上はようやく背を翻し、寮の中へ消えた。
凄い威圧感、頬を掴んだ時の顔は凄い目だった。
く…………。あんな奴の汚い靴を…………。
寮に帰った。シャワーをバシャバシャと浴びて、まだ溜まってない小さなバスタブにお湯を注ぎながら湯に浸かった。
寮なのに、共同トイレ、共同風呂じゃないなんて有難い。
やっぱり元が外国人学校だからだろうか。
トイレとバスタブとバスタブに付けられたシャワーが一緒の部屋に置かれている。
バスルームから出た。
部屋の中、何となく正方形に近い作りが、落ち着かないちゃ落ち着かなくもあるが直に慣れるだろう。
バスタブも同じように、小さく正方形だった。
緑の色調の部屋、リンネルカラーの薄茶色のカーテン。
体が暖まると、こんなしんどかった日なのに、幾分心にも安らぎを取り戻してきた……。
濡れた髪のまま、ベッドに飛び込み転げた。
3
ここは。
ここは何となくわかっている。
夢だ。夢の中だ。
霧のように辺りがぼやけて、そしてまばゆく、光が沁みるように眩しく感じられる。
「……!」
誰かが呼んでいる。
背後を振り向くと、銀色の髪の毛が。
あの宍戸晴樹が居た。
宍戸は俺の手を掴むと、自分の側へと引き寄せてくる。
俺の腰に手を当て、そしたら掴んだ俺の手を、愛おしげに自分の頬に当て、頬ずりをしてきたのだ。
「ああ……、ああ」
誰だこいつは。
夢だと性格も変わっているのか。
場面はいきなり変わり、俺はうつぶせに上体をどこかに寝かされ、足は立たされたまま、後ろから男に背に乗られ、思い切り腰に腰をぶつけられていた。
ここはどこなのか、朦朧としてよく場所がわからない。
振り向くとやはりさっきと同じ宍戸が覆い被さっていた。
「ああ………!なんて、……なんて!」
宍戸はのしかかりながらさも恍惚の最果てにいるかのような溜息を、遠くを見る目をして前を見て吐いている。
「もう、死んでもいいほど、凄い……」
身震いをしながら烈しく腰と腰を打って、自分の硬い欲望の芯を俺の中に次々と撃ち込んでいる。
「ああ、とろけてしまうぞ……!吸い込まれそうだ!幸せだ、なんて、幸せだ……」
宍戸はそう感激の言葉を紡ぎだし、入れたまま、俺の顔に向けて何度も想いのこもった激しいキスを繰り返してきた。
「幸せだよ…………」
肉棒が往きかう感触を生々しく感じる。
腸液を纏い、俺の中を入っては抜け、入っては抜けするその硬い感触が…………。
あ、
あさ、
あさ、だ。
朝だ……。自分の寮の一人部屋だ……。
麻色のカーテン。
模様の無い、草色の壁紙。
正方形めいた間取りの寮の自室。
山の天気が、そのまま室内を抜けて入り込んでいる。
気持ちの良い朝の光。
目をパチクリしながら、起きる。
起きるとも。
頭が妙に重かった。肩も重かった。体勢悪く寝たのか、首も痛いし体がダルかった。
夢……、さっきまで見ていた夢は、覚えている限りとんでもなかった。
あんな、異常な夢を……。しかもよりによって不良達の親玉、宍戸が出演してくるなどと。
きっと先日の、奴が教室でしでかした、衝撃的な乱交の光景と危うく身に危険が及びそうになった出来事がずっと頭に残り続け、こびりついて、それであんな夢を自分に見させたんだろう。
心穏やかではいられない気持ちの悪い夢だ。
反吐が出そうな、目覚めの余韻だった。
4
その日学校の授業が一通り終了し、気分晴らしに学校の裏庭に回って深く空気を吸い込んでいたところだった。
吸い込む空気は肺の芯まで行き届いて、肺まで透き通りそうな澄んだ良い空気だった。
裏庭のベンチに後ろ姿がいた。
「~~~~~~ッ」
何やらブツブツ呟いていた。
辺りには人などいなく、誰もいないのに、独り言を言っている?
側まで近寄ると話の内容が少し聞き取れてきた。
「…………わかってるよ………うん!うん!………あいつだろ!………知らないよ!……どうせすぐに………さ…………」
誰かと話しているように独り言を呟いている。
「………もし………たら………僕が…この手で…………ああ!……ああ!」
「深港君?」
近付けばはっきりとわかった。独り言の主は深港だった。
深港はベンチに座ったまま、不味いことをしていたのを見つかったように強ばり、ギョッとした顔をこちらに向けている。
「何だ!沼間か!脅かすなよ!」
極めて不愉快そうにありったけの不機嫌を込めた声色が返ってきた。
「な、何してたんだ……こんなところで……独りで……喋って」
気味悪いぞ、と本当なら告げたいのだが。
「何でもいいだろ!何処かに行けよ!……ああもう!君がいかないのなら僕がいこう!」
怒って深港はどこかに去ってしまった。
呆気に取られてしまった。
III:囁き
英語の授業の時間、#葭葉__よしば__#は古い蓄音器を生徒達の目の前に持ち出し、レコードをかけるといった。
この学園は何から何まで古い。
今更レコードを使って教育をするのか。
「このレコードから流される英語をひたすらリスニングしてください。それだけで結構。書き写さなくていい」
何とも不可思議な授業だ。
聞くだけでいい授業?
教壇の横に並列に並べた机の上に置かれる蓄音器。
古めかしい、アンティークの蓄音器に、葭葉は何やらレコードをはめる。
円盤をセンターに合わせて、かたつむりのように巻いた音溝にレコード針を載せる。
音は最初静かに鳴り出した……。
レコード特有の低く太く甲高い音質が流れる。
誰かが語りかけている形式の、英語の文句が次々と飛び出す。
書き取らなくてよいので、次第に教室中の生徒達は、ダラけた、別のことを考えているような表情に移り変わっていく。
頬杖をついたり、ペンシルを指で転がしたりなんかもしている。
眠気まで誘われてくるようだった。
語りの内容は、どこぞの教授が喋っている、アメリカやイギリスの民俗史と文学を併せて考察しているような内容だった。
そのまま30分ほどだろうか。
既に内容も追っていない頭に到達した頃。
レコードから流れてくる声に、それまでの声質、音質、と違うものが、小さく混ざり込むようになっていた。
「……………バズビ ・ バザーブ ラック レク キャリオス ・ オゼベッド ナ チャック オン エアモ
エホウ ・ エホウ ・ エーホーウー チョット テマ ヤナ ・ サパリオウス…………」
抑揚の無い、眠たくなる声の響きの教授の声と、一見抑揚の無い訥々とした響きは似ているものの……。
それは、とても、ザラついた声だった。
サンドペーパーをこするような、痛さを錯覚する、ザラついた声。
聞き取り辛く、微かな音量で、それでも地の底から響く様な忌まわしさを篭らせた声。
何かを唱えている様な。
……バズビ……
……エーホーウー ……
……サパリオウス…………
……バズビ……
……エーホーウー ……
……サパリオウス…………
気付くと周りの生徒達は、皆、トロンとした目つきで口を開いている。
この唱えに魅入られているようだ。
教室の中じゅう催眠空間のような、奇妙な雰囲気になっていた。
中には、机の下で自分の股間を揉み込む生徒や、制服のズボンから枝垂れた枝のように出して自慰を始めている生徒までいた。
俺は思わず、これを聞いてはいけないと耳を塞ぎ、具合が悪くなったふりをして教室を出た。
逃げる俺の姿を、椅子に座った葭葉が、キラリと光る鋭い眼光で見ていた。
1
「保健室に行きます」
と出て行った手前、保健室に向かうと
何やら鍵が閉まっている。
一応もう一つの扉にも手をかけたら、そちらは開いていた。
扉を数ミリか開けたところで、中の様子が変なのに気付いた。
何か喘ぎ声めいた声がしている。
音を立てないよう、ソロリソロリと入ってみると、医療スクリーンに囲われた一角に、何やら二人の男が向こう側にいるようだった。
「くすっ、くす……矢本君……」
「うあっ……ああ………!」
「矢本君のアナルももうすっかり飲み込み慣れてきたようだね」
「葵っ……葵生川せんせい…………!!」
「んん、いい匂いだ。今日は矢本君の好きな、サッカーの……授業だったのか?」
「ね、寝坊したので、寮から走ってきちゃって、それで汗をかいたのかも……」
「入り口はきゅうきゅう締め付けてくるが、中は柔らかくトロみがあって、どれだけ長くても根元まで全部入る…………」
「…んはあっ!…はアアアア!!!」
「なんと、顔に似合わず欲深い淫乱なアナルだろう。誰も君のような健勝の輝きに満ち満ちたスポーツ少年が……こんなに淫乱なアナルの持ち主だと……露ほどにも思ったりしまいよ………」
「せんせえが、せんせえの、仕業だからな…………!」
「そうだったね…………可愛い子」
「せんせえが俺をっ……襲ったから……!!俺の体はっ!!」
「矢本君……強く動かすよ」
「ふっ!!!はっ!!!アア!!アッ!!!せんせえ…もっとぉ…………!!」
「すこぶる頑くなっているな」
「あううっ!!アアア……!!!」
「堕落した生徒だ……」
「葵生川先生……大好きだ……大好きだ……」
婬靡な打ちつけ音が猥らに保健室中を支配していた。
この声は間違いなく俺のクラスの矢本光だ……!
そして保険医の葵生川だ……!
まさか彼らがこんな関係だったなんて。
「ン……そういえば、向こうの扉の鍵は、閉めていただろうか」
やばい!こっちに来そうだ。
俺はなるべく音を立てないで、保健室から逃れた。
この学校は、
この学校は……。
長い廊下の窓の外には木の枝に黒い山ガラスが止まっていて、ビー玉めいた黒瞳がこっちを固まり見つめている。
2
夕刻。寮に帰り、お腹も空いているので、部屋に鞄を置き着替えて、寮の食堂へと向かった。
今日の朝はそういえばサンドイッチとスープで、ローストビーフや生ハムのサンド、数々の野菜のサンドと、フルーツが挟まれたデザートサンドがとても美味しかった記憶を思い出した。
寮の食堂は室内が長く、ステンドグラスの窓飾りや、天井にステンドグラスの絵と翼の生えた天使の絵と雲の絵が描かれていて、とてもお洒落で良い雰囲気の空間になっている。
天井だけ見上げればまるで空に浮いているようだ。
食堂のおばちゃんらしき人達は奥に引っ込んでいて顔がわからない。
既に出来上がっているトレイの上の食事がラップにかけられ、いくつも並べ置かれており、Aコース・Bコース・Cコース・ヴィーガン用のコースに分かれて置かれてある。
俺はBコースのトレイを取り、自分の席を探して、空いた席へと座った。
スペアリブが山盛りとミモザサラダのトレイだった。
席に着いて早速食べかけると
「おい、沼間」
…………寮長の三年生、相上が現れた。
相上は立ちながら俺の座るテーブルに手をかけて見下ろして喋る。
相上は二人の男子生徒を後ろに従えていた。
「沼間。おまえ昨日の朝も今日の朝も、点呼の時間に呼ばれてもぐずぐず起きてこずに、遅刻をしているそうだな」
テーブルに手をかけ腰に手をあてながら相上が俺に問う。
「そ、それは……」
変な夢を見るからだ。変な夢を見た朝には、どうしても気怠く、体が重く、起き上がれずにベッドの上で呆然と、天井を眺める時間が長くなってしまうのだ。
…………とは、相上には、とても言えない。
「寮則を読み上げろ!沼間!」
「りょ、寮則!?」
「最初に来た時に、寮の規則が書かれた冊子を渡されたろう!読み上げろ」
そういえば記憶に確かにある。
パラっとは見たのだが。
「ええと、寮生同士は夜10時以降はお互いの部屋を行き来しちゃいけないとか……、寮内では金銭の貸し借りは絶対に駄目だとか……」
相上の目がギラッと俺を睨みつけ見据えた。
「寮内規則、第一条の寮生としての心得、ガイダンスも含めて読み上げろ!と言ってんだよ」
「ええ……!?そんなの、暗記して、覚えてませんから!!」
「暗記してない?だと……!」
あれは、暗記しなければいけないものだったのか?
相上の従えていた二人の男子生徒がいきなり俺の両腕を、両端からぐいっと押さえ込んで固めた。
「!?」
相上が近くに迫ってきた。
相上がいきなり俺の頭の髪の毛を掴み上げて、俺の顔を、サラダの深皿にいきなりガツンとぶつけてきた。
「………ッ!………ッ!!」
鼻と額を打って、痛みにすぐには言葉が出てこない。
「痛いか……?いいか……!寮則は絶対だ!わかったら、次に俺に会う時までに暗記しておけよ……?」
言うなり翻して振り向きもせず相上は立ち去り、二人の男子生徒も俺の腕をすぐ離し付き従ってどこかへ消えた。
サラダの具がついた液体だらけの俺の悲惨な顔は惨めにされたまま、後に残るのは相上への怒りと悲しさと、理不尽さへの歯噛みだけだった。
俺は顔を洗い、その日は食べる気にならなくて、残ったトレイを全部片付けて、自分の部屋に駆け込んだ。
シャワーを浴びて、何もかも忘れるようにベッドに入り込み、掛け布団を頭から掛けた。
3
まただ。
また卑猥な夢の世界だ。
俺はまた、宍戸に掴まれ、抱っこされるような格好で、足の間に宍戸の雄を突き込まれている。
「あ…………っ………ぃ…………あ…………っ…………いぁやっ…………」
苦痛、そして苦しみに、腹部が張る。
苦しくて息すらできないが、宍戸が俺の背中を楽にしようと撫でてくる。
「ゆっくり、ゆっくり、動くからな……」
太くて、長すぎて、このままじゃ死んでしまう。
背中をさすり撫でながら、宍戸は頬に口づけ、安心させるように微笑みを零す。
「道也……。俺の眼を見て」
見ない。顔を伏せて長大な質量に震えている。
宍戸はそんな顔を無理に上げさせず、ペロペロチュッチュと、慰めるように頬のラインを、そして顔中を、舐めた。
「いあっ……いあだ………」
構わずに唇にまで舌を割り込ませた。
鼻と鼻がぶつかる。ザラザラした舌が奥深くまで動きながら侵入する。
口を離すと
「ナカが幾分柔らかくなった……。じゃあ、激しく動くから……」
と宣言し、宣言通りに、打って変わり激しく、ガタガタと載せられた卓を揺らされる。
ここは職員室か。辺りは暗くて、目は慣れないが大きな窓にデスクが並んでいる。
「………………ヒッッ!!…………ッッ!!…………ッヒッッ!!………」
叩き壊さんばかりの息つけぬ激しい責苦にただただ瞼をつむる。
何年分かの溜まりに溜まった欲情を一気にぶつけられているようだ。
地震のように体を揺らされ、助けてと声を出す隙すらない。
「アック!!アッ!!…ク………アッ!!」
恐ろしく長い。
腹に向けてカーブした雄の性器は、肉を割り裂いて侵入を深めては、中の結腸から何からを外まで引っ張り出そうとするかのように激しく動いた。
………しっ……死ん…じゃ……う!!!
本当にお腹がいっぱいすぎて、限界を訴える。
「ハァ………ハァ……」
宍戸の汗が胸に落ちてきた。
俺もはあはあ荒い呼吸しか出来ない。
もうそろそろ出したいのか、更に一レベル動きを上げて、食い破るように凶暴に動きを速めた。
たまらず叫んでしまう。
そこで目が覚めた。
四角い天井。四角い間取りの寮の部屋。夢だった。
汗を滝のようにかいていた。
しばしベッド上で、呆然とした。
4
夜風にあたりたかった。
0時を時計の秒針が通り過ぎている。
寝ていた寮をこんな時間に抜け出すのは、本当なら許されることではないが、とにかく開放された空気の元に向かいたかった。
それぐらい、どんよりした胸の重しが苦しかった。
寮の前の小さな噴水の前で、息をつくと、何やら中庭のほうに通常とは違う髪の毛を引かれる気配があった。
なんとなしの勘だ。
学園と繋がっている中庭まで雑木林を抜けて歩いた。
夜の雑木林は、行かせまい、とするかの如く風に揺れる。
中庭が、見えてきた。
中庭に、複数人がいる。
ぎょっとした。
ほとんどの人間が、裸だったからだ。
この学園の男子生徒で間違いはないが、何と、男性教諭で見た顔も一人混ざっていた。
火が燃え散る松明を手に持つ男に見覚えがあった。
宍戸の手下の不良だ。
後ろの暗闇から、宍戸晴樹が歩んできた。
トレーナーにジーンズといった、服を着ている。
「今日は盛大に楽しめ」
右手を全員に向かって掲げる。
「季節外れのワルプルギスの夜のように、盛り上がれ……。吉兆が、この学園に、舞い降りたぞ……。黒き羽がこの学園を包み込む!」
宍戸の手下が、宍戸に近づいて来る。
手には黒カラスの首を吊ったものをブラ下げて!
(うわあ……!)
「さあ!パルマケイアの散種を!」
宍戸の夜闇に響く一声を合図に、男達は乱れに乱れて地に倒れまた絡まりあった。
彼ら、猥雑の群れの中から一人、眼鏡をかけた男子生徒が、宍戸に向かって、恐れ入るようにおごそかに歩いて来る。
顔をよく見ると学級委員の深港耕士だった。
当然裸で、上半身も下半身も全て露わに、生殖器も剥き出しにブラ下げて歩いている。
「宍戸さま……宍戸さま……」
深港は宍戸の至近距離に歩み寄ると、自ら跪いて、両手を組み、乞うような姿勢を見せた。
「深港」
「宍戸さま……、今宵はこの僕が、宍戸さまのお相手に自ら願い出させてくれませんか」
決してイケメンとは言えない、頬のこけた、ノイローゼの受験生のような容貌の深港だが、宍戸はニヤリと笑うと、いいだろう、来い、と告げた。
深港は宍戸の目の前に歩み出ると
「失礼させて頂きます」
宍戸のトレーナーをそろそろと丁重にまくりあげ、素肌の胸板を晒させ、左の心臓のある位置に口づけをした。
それから唇を横に静かに移動させ、宍戸の乳首を口に含んだ。
宍戸は笑って深港の顔を見ながら含ませている。
クチュクチュ、クチュ、と音が聞こえてきそうな口の動き。
宍戸の雄は早くもジーパンの上から盛り上がりを見せている。
しばらく同じように含んでから、
口と乳首の距離を若干離し、舌先だけを使ってチロチロチロと蛇の舌のように細かく動かして乳頭を揺らし舐めし始めた。
宍戸は気持ちがよいのだろう、目を瞑って深港の頭を撫でた。
そのまま10分ほど舐めて終わると、今度はまた静かに口を腹筋から下腹へと、口づけたまま添わし、ジーパンのフックを開け、下ろし、翳りの毛が見えるまで下着をずらし、その毛並みに顔を埋めていく。
匂いを嗅ぐように、しばし顔を潜めたら、そのまま若干、顔の位置を移動させ、顎を動かし始めた。
「んっ…んっ…んっ………はぁ……!………はぁ…………!宍戸さま……………!」
深港の顔も、喉も、上下する。
頬にぼこっと含んでいるものの形が浮き上がり、なおも口の中をもごもごと移動させ激しく転がしている。
首、上半身すら動かし、鳥のように必死に、宍戸の雄を舐めている。
宍戸は首だけのけぞるように目を瞑ったまま口を閉じ夜空を仰いだ姿勢でいる。
「んっ……んっ……ん」
どれほど経ったろうか、ふいに宍戸がいきなり前触れなく、深港の口内から自身を取り出して、深港を倒しのしかかった。
深港の足の間に、張り詰めたであろう雄を沈めさせている。
深港は自ら足を開き、歓喜した陶酔の表情でくねりのけぞった。
「宍戸さまーッ!ああーッ!宍戸さまーッ!!」
喜びの涙まで流している。よっぽど彼が好きなのだろう。
そのまま正常位で犯し初め、途中から宍戸は座り、深港が絡まる体位に変わり長いこと交わっている。
俺は、彼ら宴のフィニッシュまで見届ける気力が毛頭なく、寮まで引き返した。
一瞬、引き返す俺のほうへ、宍戸が顔を向けた気がした。
やばい、バレたか。気のせいだろうか。
翌日、図書館でワルプルギスの夜とは、なんだろう?と調べてみた。
図書館にワルプルギスとタイトルがつけられた本があった。
ワルプルギスの夜とは
【4月30日か5月1日の夜、ヨーロッパ圏の広い範囲で行われている夜の祭り。
古くは春を迎えるための神聖な儀式の一つであったが、ヨーロッパにキリスト教が広まってからはこれらは異教の風習であるとされ、次第に魔女による儀式として変容していった。ドイツの言い伝えでは、4月30日の夜に魔女や魔術師たちが、ブロッケン山に集い催される酒宴、祝宴として有名】
なるほど……。
じゃああいつらが、宍戸の取り纏めの元、いつも乱交を繰り広げているのは、もしかして……。
所々端の破れたその本には他にも、怪しげな魔法陣の模様や、魔女の父と呼ばれる魔術師の男の肖像画などが載せられていた。
ページをめくる内にある一つの肖像画が目に止まった。
『ファビアン・ド・アルヌー』と名前が書かれている。
シワが刻まれ、力強い目をした、中年の男の肖像画だ。中世の人物だ。
その顔が、何と無く、宍戸に似ていた気がしたのだ。
髪の毛の色は、くすんだ……銀髪に見えた。
「魔女の祭儀を体系立て実践理論化し、古代ヘブライ語のみで書き記した古書の数々を現代に遺した、フランス貴族から生まれた大魔術師。そのどれもが斬新な魔術解釈を行い、考古学的な知識や薬学的な知識もふんだんに織り込められ、学術的な価値の総合的に高く……」と説明書きにはあった。
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