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第5話 六芒星

俺が……俺がやった……? 噴水のある中庭をフラりと離れ、裏手にある誰もいない体育倉庫で俺は一人頭を抱える。 あの紫の本に口づけをしたことと関係ある……? 甥彦のいつかの図書館の言葉が頭をよぎった。 『…………その本を手に入れれば、何でも願いが叶うらしいんだよね』 『……何でも、自分の心の底に思い描く、自分でも気付かないような本当の願望を叶えてくれるんだってさ』 頭の中にエコーがかかったように甥彦の言葉が何重奏にも重なる。 目眩がした。 瞼を閉じても浮かぶ残忍な光景。 初めて見る陰惨な死体。 水に浮かぶ人間の肉色の破片。 マットに座り込みガタガタと震える俺は、腕を組みながら、まとまらない頭で必死に考える。 その内唇から体温は失せ、妙に体が冷たくなった。 ふっと意識が保たれず、崩れた。 「気が付いた?」 保健室の白いパイプベッドの上にいた。 ふらつきながらベッドから出て立ち上がる。 「ちょっと。まだそこの椅子に腰をかけて話を」 どうやら…… 体育倉庫の中、気絶していた俺を、朝噴水の前で人だかりの中に見かけたものの、いつまで経っても教室に出てこないと心配した同じクラスの甥彦が探して見つけて、保健室まで運ばれたらしい。 警察は……来たんだろうか。あれから……どうなったんだろうか。 「無理はない。お友達が、あんな変わり果てた風になったのを沼間君は目の当たりにしてしまった」 葵生川が、同情するような声色を使った。 「先生だって悲しいよ……矢本君があんなことになって」 葵生川と矢本には関係があった。 それにしても、本当に悲しんでいるんだろうか。 この医者からは、どこか口ぶりと反した平静さが漂う。 「沼間君に、気持ちを安定させるお薬を軽く打つことにするからね」 葵生川は俺の髪を撫で、棚に向かって鍵を開け、何かを取り出し準備し始めた。 髪を撫でるのも保健医として越権行為だと思うが何も言わない。 注射筒に針をセットした葵生川は、それを横に置くと、小ちゃい椅子のような注射台を転がして俺の腕をその上に載せ、俺の制服の袖をまくりあげる。 ゴムで腕を結束された。 葵生川は満足そうに笑って、まくりあげた俺の腕に消毒綿をあて、鼻がスンとするアルコールの臭いが広がった瞬間に、鋭い細針の先を、滑りこませるように皮下に刺してきた。 俺と葵生川の伏せた目が注射器の中の液体が自分の中に潜り込んでいくのを見届ける。 たちまちふわっと体が浮くような楽になる感覚があった。 葵生川は手早く後片付けをしながら「ベッドで暫く休んでから帰るかい?」と聞いてきたが、俺はそのまま羽がついたままの足取りで保健室を出ることにした。 校内放送が保健室を出た瞬間、流れる。 如何にも生徒によるたわいもない内容が流れてるようだが、だが俺は気付いてしまったのだ。 スピーカーから流れているハキハキと快活な生徒の声に、小さくて聞き取り辛い複音が被せられていることを。 それは。 ……バズビ…… ……エーホーウー …… ……サパリオウス………… ……バズビ…… ……エーホーウー …… ……サパリオウス………… 井戸の中、壺の中を、こもって繰り返し続けるような、あの連続であった。 1 気持ちを安定させる注射、とやらを打っても、あの夢を見続ける。 そういえば俺は保健室を出て廊下を歩いていたんじゃなかったか。ここはどこだ。見る限り、学校のようではあった。誰もいない、鍵を閉められた部屋のようだ。絵が沢山飾られて、使用されないイーゼルが重ねられている。美術用具室……? 相上の顔が、すぐ近くにあった。 生徒が描いた絵が張られている壁に囲まれる中、床に座り足を開脚している俺の股間に手を添え、指をピンと品良く伸ばし、親指で先端の口穴をグリグリ、長い四指で、睾丸の上の部分から生え立ち上がった管の部分を、羽根のように撫でていた。 俺が感じている顔を、一表情も逃さんとするように見つめ、手の緩急を細やかにコントロールした。 ウッと出してしまったものを また後ろに塗りつけられ、#他人__ひと__#の雄を侵入される。 グイグイとすぐに長過ぎるそれは全部根元まで俺の中に入り、抽挿が繰り返される。 耳を舐めてくる相上の意のままに、何回も奥から出口まで、熱いそれは幾度も幾度も滑った。 指がまた羽根のように俺の雄を撫でる。 穏やかな動きで、俺の快感を幾度も煽る。 もどかしく。 腰が動いてしまう。 裏筋を風のように幾度も幾度も触られ。 脚の間からは相上の雄が体の中心に杭を打つ。   唐突に電気が感電したように、快楽の頂点が急に降りてきた。 勢いよく放たれた尿道の開放感。 そして後ろの孔から伝わる電流。 「はっ………はっ………」 息を吐き吸い込むのがやっとだ。 犬のように呼吸荒くつく。 そんな俺を顔色変えずまた見守るように見る相上の雄はまだまだ元気で、動きを止め俺の中心にめり込んでいるまま。 呼吸が少し落ち着くと、いきなりまた動き出してきた。 うねりの波のように動いて、突如、荒々しく奥を殴り込む。 さっきまでより激しい。 カリッと乳首をかじられながら、荒く突き上げてくる。 また予告なく急に背骨にビリビリ来た。 ついさっき全身に電流を浴びせられたようになったのに、また立て続けにイカせられる。 腰が砕け、先端から溢れすぎ、さっきより出過ぎている。 足がつり、呼吸は激しく風船のように膨らんではしぼむ。 射精の快感と前立腺を極限まで絞られて起こる体の中から来る快感。 天にも登る浮遊感。 ひくひくと痙攣する俺の顔をじっと見つめて、間近の相手は満足げな笑みを浮かべる。 間断僅かに連続で達せられ、 それでも腰の動きはまだまだ止みそうになかった。 出入りする度に神経終末の集まり過ぎている部分に甘く当たり、出し終わって縮みかけるものを、許さずすぐに奮い立たせる。 俺の出し終わった敏感な雄もしごきながら、中をいっぱいに動くので、気持ちよさと苦しさが違和感の極致を混合していた。 「あなたの中に出します」 相上はそう言うと、唇を押し当て、羽交い締めにするように、全身と全身を強く密着させ、最後の最後の一滴まで、俺の中にしたたらせた。 唇をやっと離され 何も言えない、喋れない、反応できないで幸せの余韻の恍惚に浸る俺。 すると相上は俺の顔の前に何かを噛んで持ってきた。 「これにキスを」 くすんだ金のメダル。純金のような控えめな光だ。本物だろうか。 言われるがままにメダルに口づけをした。 メダルの表面には紋様の図柄があった。 口づけをしても何も変わらないけれど何かあるんだろうか。 2 「起きろ!おい起きろ」 葭葉だった。 「もう学校は鍵が閉まる時間だぞ!」 本当だ。夜だった。窓の外は。 「教室に倒れて寝てるからな。俺がビックリした、今日あんな事件があったばっかで……。しかもここは一年生の教室だぞ?」 「うう、ああ……」 そうだ、矢本は……。 「ところで、沼間はこの前、俺の授業から何で逃走したんだ?」 「何でって…」 「内申を厳しくしないとなあ、これは。 ………嫌ならそこの窓に手をつけ」 葭葉の雰囲気がおかしい。 「内申を最低点にしてもよいのか? ほらっ!!手をつけっ!!」 迫力の声で怒鳴ってくる。 渋々俺は幅の広い窓に手をついた。 そしたら葭葉は後ろを向かせ、手をつかせた俺の、制服を、上からスルスル剥ぎ取ってくる。 「先生!!なんだよこれ!!」 「内申低くしてもいいのかっ!!!」 また怒鳴ってくる。柔道部や空手部の監督がコーチをつけるような怒声で。 下の服も下着まで剥ぎ取られた。 葭葉は教室の夜の窓に手をつかせた俺の下半身の足をギリギリまで広げさせる。 「教室の中は光がついていて外は暗いから、外からじゃ丸分かりだからな!!ウハハ!!!」 こんな、何も身につけてなく、裸のところを……誰かに。 教室の窓は教室全体を見渡せるほど面積の大きい作りになっている。 「見られてるぞ!!沼間!!おまえの恥ずかしい姿!!俺に腰を突き出して尻をむけている姿!!!アナルを見せつけている場面を!!」 後ろ孔を指で両側に開かれた。 「……ふっ!」 「ピンクで可愛いなぁ~、これからこれに突っ込むのか……」 「あっ!!やめろっ!!」 葭葉は自分のズボンと下着だけを下ろした姿になる。 足毛、すね毛が濃く生えている。 俺の後ろ足に自分の足を絡ませ、すね毛をジョリジョリ当てて擦り付けてくる。 そして俺の後ろ孔に、自分の亀頭を当て。 後ろ孔の上から下の睾丸のキワまで、血で膨れた亀頭でヌラヌラとなぞってくる。 形がありありと俺の頭に入ってくる。 「入れちゃうぞ~沼間……どうしよっかなぁ……」 ゆっくり、尻の谷間の全部をなぞってくる。 上から下まで下卑な先走りをつけながら。 「せんっやめて、やめてください……」 俺は震える。 「ここに美味しいチンポは初めてか?沼間」 「……っ!!あるわけないじゃないですかっ!」 「おまえの初めて奪っちゃおうかな~」 笑いながら塗りつけ谷間をなぞる。 「おっ、入りそうだぞ」 先の谷山になってる小さい部分が、俺の中に沈められる感触がした。 その瞬間だった。 葭葉が口から潰れた声を出して倒れて昏倒した。 「ンがぼっ!!」 相上だ。 相上が葭葉を思い切り蹴り上げ、昏倒させたのだ。 助かった……。 ほうっと息をつくと、助けてくれたはずの相上は、俺を汚物を見るように睨み続ける。 「先生と教室なんかでプレイしてんじゃねえよ変態。外から丸見えだ」 「違っ!!こいつが強制したんだ!!こいつがっ」 気絶している教師を指差す。 「男好きな沼間君、か」 「俺はホモじゃないし、男となんてやらないっ!!」 しばし睨み合うと、相上は笑って 「まぁいい。今日のこの出来事をバラされたくなかったら、俺の靴を舐めろ」 「また……?」 「ほら、舐めろ」 右足を出してくる。 バラされるわけにもいかない。 俺は仕方なく手をついて、靴にまた口づけをした。 「誰がキスしろなんつった。舌を出してペロリと舐めろ」 嫌悪感が湧きながらペロりと舐めた。 涙が一つだけ靴に落ちた。葭葉のこともあってショックがデカすぎたのかもしれない。 夢の中の相上と現実の相上はまったく逆で、何が夢で何が悪夢で何が現実か、まったく泥まみれで分からなくなった。 3 更に翌日だった。 学校に登校すると、教室の中で 葭葉が死んでいた。 顔の皮は剥がれ、両方の目は違う方向を向き、鼻は削げ、血塗れで座るように死んでいた。首は胴体と反対に向いてついていた。 葭葉の上には葭葉の血で六芒星が描かれていた。 地震が来た。

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