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第6話 コマ撮り動きの死体
地震は地の底から歪んだ生命が生まれでもしてくるかのような、赤子の泣き声に似た唸り声をあげながら揺れた。
唸り声は死体を前にし極限の緊張にいる俺の頭を、ビリビリと布を引き裂くように切羽詰まらせ、揺れるリノリウムの床は、一瞬だけこの世の終わりの未来に自分が立っているかのように錯覚させた。
五分経っていたか十分経っていたかわからない、時間感覚の消失。
地震が止んだ。
暫く我を失っていた俺の頭が、ハッとした。
物言わぬ死体である筈の、
顔の皮のずるりと剥がれ落ち、
鼻は削げて無くなり、
首は胴体と逆方向を向いている、
葭葉の死体が
葭葉の死体が、動いた。
首が後ろに回転してるはずなのに、グルッと俺の方を向く。
壁に描かれた六芒星の星。赤い六芒星が、光る。空間が、歪む。
異空間の様に、目の前の風景が笑う。
グニャリと笑う。
葭葉の死体は、操り人形のような動きをして、俺に、襲い掛かってきた。
俺は絶叫し、走ってそこから逃げた。
(ああああ、もう嫌だ!
うううう、この学校は嫌だ!
ああああ、助けてくれ!
ここは魔界か!
実道!実道!助けてくれ!)
ドンッと誰かにぶつかり、勢いよく跳ね飛ばされた。
走ってきた人間に思い切りぶつけられた相手も同じだったようで、後ろに倒れ実に痛そうに尻餅をついている。
「お………甥彦………」
「っ、つつ、沼間……君……!」
「…………ごめん!」
「どうしたんだよ叫びながら走って…………ああ葭葉の死体を見たんだな?」
「うう……!うう………!うわぁぁ!!」
俺はまた走って、呆気に取られる甥彦の横を駆け出した。
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そこでは誰かが暗闇の部屋の中を覗いていた。
声だけが辺りに響き渡る…………。
どこか恐々しい響きの抑揚。
「よく、殺してくれたな……俺の望み通りに……」
「簡単でしたよ」
裸同士の男達は語り合う。
「赤子の首を捻るより……」
「まだまだ、血が足りぬ……」
「でもその前に……印が」
「忌まわしの神は、起きるかな?果たして」
覗き見ていた者はそっと立ち去る。
(なんだ……あれは……。…………面白い)
そしてそっと笑う。
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「死者が襲いかかった。それは、幻覚だ、沼間君。また、気持ちを安定させる、注射を打とう。沼間君」
葵生川はそういうと、すぐさま棚に向かい、例の注射を取り出し始めた。
保健ベッドに寝かされる。
葵生川が俺の腕を、枕状の注射台の上に載せ、駆血帯のゴムを巻きつける。
再度、注射針が体を突き抜け、冷たい液が注入されると、俺の心はすぐに強制的な安心感の中に落とされた。
だが、こないだと違う。
急に俺は腕に力が入らなくなり、筋肉が思うように動かせなくなり、だらんと四肢が自由にならなくなった。
葵生川は俺の様子を見ながら、ニヤニヤと笑っている。
何か、他の薬液が混ぜられたのだ。
喋れない。
一時的だろうか、思うように舌が動かせない。
腕と脚が痺れ、筋肉が動かせなくなった俺の下半身は、制服のズボンを脱がされ、完全に空気に晒された。
「何か、他にも身体に異常はないか、念の為診察してみよう」
葵生川は俺をうつ伏せに転がした。
そして指先で円を描くように尻を撫ぜた。
不快な感覚が背後を覆う。
完全にこの診察の目的は、欲望的なものとなっている。
葵生川の下卑な診察は続けられた。
うつ伏せになる俺の尻を、後ろから肉に手を入れ、興味深そうに割り開き、時に指で中心に触れ観察をしている。
以前の目撃した光景で、葵生川が男好きなのは明らかだった。
それなのに保健医としての信頼にかけ、俺はうっかりこいつの前で無防備になってしまった。
喜んだような声が耳に入った。
「なんだ、沼間君も同性愛者じゃないか」
3
「ほらね、見れば縦に伸びているのは明らかだ。一本の線のようだな。沼間君のアナルは、誰の目から見てもわかる、こいつ(このアナル)はアナルセックス経験者のアナルをしているぞ。これはつまり、君が男好きの男であると、同時に、私に自ら説明をしたんだ。奇遇だな。先生も、沼間君と同じ、自分と同じ男が好きな人なんだよ。同じ嗜好の持ち主同士、これからは仲良くしよう……」
なんだって……?
ギョッとして、耳を疑ってしまう。
葵生川が同性愛者であることも勿論ギョッとするが、それより何より、俺の肛門がアナルセックス経験者の肛門をしてるだって?
「随分何回もアナルでの交接をしていなきゃ、こうはならないはずなんだがね……」
尚も直接肛門の上を指でやわく押しながら葵生川は残酷な診断内容である言葉を続ける。
断じて誓う。俺に男としたような経験は絶対にない。学園に来る、今の今まで絶対にない。
思い当たるのは……
思い当たるのは……あ、あの、この学園に来てから繰り返し見る淫夢、あのみだらな夢達は…………あれは、あれは
あの夢の内容は……
夢じゃなかった?
俺の体は現実に、宍戸や相上、あの男二人と交わっていた?
謎が深まる。ワケがわからない。
何よりショックで、バクバクと動悸が激しくなった。
注射を打たれて手足が麻痺し自分で動かせないのをいいことに、保険医は遠慮なく【そこ】を、指でグイグイ押し始めた。
反射的に声が出た。
「はぁッ!!」
「流石……、使われているアナルは、触れた感度が既に違う……。すぐにそうやって、堪えきれない溜め息声を出す……」
葵生川は愉しそうに指を押し込んできた。
「アウう!」
侵入の感触に顔がしかむ。
すぐに骨の太く長い指の第三関節まで飲み込まされた。
「う、動かさせっ……ないっ!で!…先生!」
まだ呂律は心許ないが、発声は絞り出せるようになってきていた。
やはり一時的な舌の麻痺だったようだ。
葵生川はそうはいっても、指を折り曲げ前後させて動かして来て止めない。
「はァッ!あァッ!ゥううー、ツラい……!」
直腸の中の排泄感覚を無理に煽られているような指の動きに身悶えする。
指が動く度に、大便が出入りするような違和感しかない苦しい感覚に腰が引き攣って嫌がる。
「すぐ快楽に変化させてあげよう」
葵生川の一言と同じタイミングで触診紛いの動きをする指が、ゾクゾクとする信号を広げる一点を揉んだ。
「…………っ!はぁっあっあぁ……!」
俺の啼き声が、吐息と混じる甘い囀りのような快感を逃す声に変わった。
「先生ぇ、先生ぇ!」
思わず、保健ベッドのシーツを掴みながら背後の人物の名を呼んでしまう。
「いいんだね、ここが」
「先生ぇ!そこは…おかしくなるよォぉ!」
「何回もココでイってんだろ?」
知らない。夢の中のことなんか、よく覚えてない。
俺はイってない。そんな部分でイってない。イったりなんかしていない。
「あひっ!」
更に大きくそこを揉み込んでくる。
「ここがこんなに感じて止まないのは、何回もここでイケてる証なのに」
「ァッ……だめだ!」
そんなとこいじられて射精しそうになる。射精感がグッと起こってしまう。
そんな心を読んだのか、葵生川は指をゆっくり引き抜くと、おもむろにカチャカチャと自分のベルトを外し、既に硬さを持っている隠部を掴むと俺の後ろの孔に、先走りを塗るように押し当ててきた。
「せ、先生ェ、許して、入れてこないでっ、先生!入れないで」
「かわいいな、沼間君は」
振り向いて見上げ懇願する俺の横頭を、葵生川の手のひらの影が覆ったかと思うと、親が子にするように側頭を柔らかく一回撫で下ろされ、同時に当てた陰部を力一杯押し入れて来た。
「あっっー!!あッ」
複雑な何とも言えない感情が込み上げて来て心が揺さぶられツラくなりながら、葵生川の肉棒の熱さ強さを感じた。
「ァッ!!くぅううう!はああああ!!!
やだよォ!!」
葵生川は荒く息をついて、背後から、壊すように思い切り迫り、俺の腰を自らの下半身でどついてブン殴ってくる。
「やだよおー!!こんなの、嘘だあ!!俺が男に捩じ込まれてるなんて嘘だあ!!!」
俺の悲痛な声はますます背後の人間の欲情を滾らせるだけなのか、わめけばわめくほど、愉しそうに熱意を入れて動きが激しくなってくる。
「トロトロの、良い尻の中をしてる」
「こんなのが気持ちいいなんて……ッ!嘘だあ!!!ァッァッアア!!」
葵生川が、シーツを掴む、俺の手のひらを、ぎゅっと握りしめて来た。
「私も君と同じだ。生徒の君とこんなにもいやらしい男と男のセックスが出来てとっても気持ちがいい」
震動され発声さえもおぼつかなくなる。
「こんなの、セックスじゃない!俺は男となんて、セックスしてない!!アッ!!うっアア!!アぁアッ!!」
「鏡を見てご覧」
ベッドの目の前には立てられた姿見が丁度あった。
鏡の中には確かに、背後から片足を思い切り持ち上げられ深く咥えこまされた、男女のように交わっている俺と葵生川の姿があった。
後ろに深く挿入されて俺の前についている雄自身は反り、持ち上がっている。
葵生川は鏡の俺の顔をにやっと笑い見ながら、俺の耳を舐め、片手の指で乳首をねじるように回し揉んだ。
羞恥で顔が熱くなると共に俺の前から勢いよく白い液体が跳ねて、飛び出して、シーツと自分の体を汚した。
葵生川も笑って俺の中でスピードを上げ叩きつけると、俺の腰を絞めるように抱き締め、欲望の限り自分の体液を俺の深い場所で放った。
魂に届くかのような芯の奥にマーキングされた俺は、全身の力を無くし放心していると、葵生川は今度は俺の体を、鏡を向かせたまま座った自分の上に乗せるようにし、肉棒の位置を直してまた沈め込み、ゆっくりと動きを開始した。
顎を持たれ葵生川に唇と口内を奪われるが、俺の目は鏡の自分に縛られて目が離せなかった。
「今日はずっと自分の姿を鏡で見ながらイきなさい沼間君。理解できるまで私がウブな君にセックスを教え続けてあげるからね」
天井のトラバーチンの模様と、埋め込まれた長い蛍光灯が、真上から、ベッドに仰向けに倒れる俺の全身の姿を見下ろしている。
気づいたら、鏡の前で散々淫らな体位を次々に見せつけ、俺を気の済むまで蹂躙した保険医はどこにもいなく、乱れたシーツのベッドの上に、大量の白濁がこびりつくように乾いた何も身に付けていない自分の体だけがあった。
電灯つけっぱなしの白い光に満ちたままでいるガランとした保健室。
廊下の窓からは廊下が真っ暗なのがわかる。
シャワーを浴びたいが、寮に帰らないとこんな保健室にある筈がない。
散らばった学生服をかき集め、葵生川の白濁がついたままの上から着込む。
もう深夜だというだろうに、扉はどこもかしこも施錠されておらず、廊下に出て、散々腹をえぐられた違和感を抱えながらそのままスンナリと寮まで辿り着けた。
寮の前には、運悪く、相上が待っていた。
立ち塞がる。
どうやら、俺をわざわざ待ち構えていたわけではなさそうだが、タイミングは非常に悪く、寮の門限を破った#お仕置き__・__#を間違いなくこれから俺は受ける。
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