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第7話 保健室の緜蛮
「あ、相上…………」
相上はさっきまで寝ていたような少々乱れた髪に、カーディガンを羽織ったパジャマ姿だ。
「こんな遅い時間にお帰りか?この不良生徒め、生徒手帳を出せ。学則を読み返してみろ……」
生徒手帳なんか取り出さなくても、20時の門限がとうに過ぎているのは丸わかりだ。
「どうした沼間。ノロノロしていないで、生徒手帳を早く読み上げないか」
俯いたまま立ち尽くしていると、相上は思い切り俺の制服の首根を掴んだ。
寮の前にある噴水に俺の首根っこを掴んで引き回し連れて行く。
噴水の噴出は時間によって止まっていて表面張力の水流は停止しているが、底にプールされた水は依然、留まりそのままである。
水面ギリギリまで顔を押し付けられた。
首を痛く抑え込む。
「こんな遅くまで寮に帰ってこねえとはいけねえお坊ちゃんだ」
勤めて冷静な声色で乱暴に言葉を放ってくる。
「ふん……?…………?何だ、この……ニオイ…………」
相上が俺のそばに顔を近づけ、嗅いでくる。
「精液か……これは精液の臭いか……」
相上が眼をギラつかせ笑った。
「何をしていたか、俺が確認してやろう」
そう言うと、相上は、噴水に頭を向け四つん這いになっている俺のズボンを脱がせにかかってきた。
しかし抵抗しても無駄だ。抵抗すればするほど更にやられる行為がエスカレートする。
「これは……、完全に事後の状態じゃないか。なぁ!」
下半身を完全に剥かれた俺は、嗤われた。
「ホモじゃないと、この俺に堂々言い放ったよな?いつから誰に食われたんだ?それで、あれから」
「………ぅ……うう!………」
「同意か……?レイプか………?
まあいい、どちらにしろ、ドブネズミの貴様にはお似合いだ。
精で臭い体を洗ってやるよ!」
首を捕まれ噴水に思い切り落とされた。
水が派手な音とともに飛沫き跳ねた。
深夜の水浴びは冷たい。
それでも無言でいると、相上は呆れたように去っていった。
俺はやっと、寮の自分の部屋に帰れた。
ベッドではなく床に、そのまま倒れ込むように寝てしまった。
1
教室の自分の机にいると、突然入り口に竹刀を持った不良達が押し寄せてきた。
五人はいる。
「沼間!呼ばれてるぞ!!」
学級委員長の深港が喧々と俺を呼ぶ。
仕方なく五人くらいの、不良達の前に行くと捕まえられ歩かされた。
「宍戸様がお呼びだよ」
「今日もまたあれが開催だからな」
「おまえの初参加だそうだ」
冗談じゃなかった。
俺は走って逃げたが、不良に追いかけられた。
息せききって逃げ惑う。階段を走り降り、一階の、どこでもいい、職員室でも!人がいそうな部屋へ!
ガラッと開けたそこは、昨日の保健室だった。
机に座った葵生川が白衣姿でこちらを見る。
「君はなんだかんだいって、また自らこの保健室に足を運んだじゃないか」
葵生川はそういって、俺の体を、俗に言う駅弁のスタイルに持ち上げ、下から突いてきた。
外国人のように立派な体格をしている彼には、俺ぐらいの体を持ち上げるのは容易らしかった。
「沼間君は……確か、二年生だったよね?なら、学校を……卒業してゆくまで、先生とこうやって、恋人のような逢瀬をずっとかわしていようね……この保健室で……」
「ゥッ……あぁ!アアあ!!んあっあ!!!ああっ!!」
葵生川の雄の分身を押し込まれ、
下から、戦うような力で力強く突き上げられ哭かされていた。
突き上がる度に睾丸がパタパタと揺れる。
突かれる度、ズルぅっと引き抜かれそうになるが、また長い柄が、俺の中に杭を打つ。
口から貫通させようとするような、激しい力で。
「もう……!もう…………!!」
「まだ早いよ」
眼球が天井を剥く俺の目を、葵生川が笑ってクスクスいさめる。
「ハッ!アアン!!アッッ!アッああン!!!」
「どうだい?先生とセックスするのは」
「あっ!!あっ!!いっ……うっ!?」
「答えなさい!……病みつきかい?」
尻を揺さぶられ、答える代わりに力無く頷く。
「先生の、男にしかない持ち物が大好きか?」誇示するように言葉に合わせて腰を動かす。
同じように俺は大きく振りかぶり頷いた。プライドが自分を責め、葵生川の肩を掴む手に震えるほどの力が込み上げる。
「可愛い……君はこの私と同じ、男が好きな同性愛者だ」
乳首をいじりながら、葵生川は暗示をかけるようにゆっくりと言い聞かせてくる。
違う。違う筈なんだ。その……、これは……違うんだ。
頭で否定する俺に、唇をまた割ってキスをしてくる。
葵生川の薄い唇と、硬い顎の骨がコツンとあたる感触がする。
舌と舌でネトネト絡ませ、喉奥をつついて、舌先をしゃぶり愛撫をしてくる。
「先生を好きになりなさい……沼間君。……先生も、君がこんなにも好きだから……」
喉をつつかれながら、好き、と心痒い暗示をつけられ、俺の体は意思に反し、最後に残る最低の抵抗の力が、熱く、溶け崩れてしまう。舌先をしゃぶられながら俺は体が浮き上がり放った。
俺が出してからも
同じように溶解された俺の秘部に、葵生川は何度も自分を繰り返し突き込んだ。
途中から保健室の壁に手をつかされ立たされ、死ぬほど排泄口を性器のように扱われ、グチャグチャぶたれた。
そしてやっと、葵生川に腰を捕まれ注がれる………。
葵生川は自身が欲望を出した後も、今度は保健ベッドに俺を寝かせ、入れようとせず、二時間くらいずっと俺の全身をくまなく愛撫してきた。
葵生川の素肌を擦り付けられ、そこまで強い刺激じゃないさざなみのような愛撫を、イキそうになると止められながら、ずっとなだらかな愛撫の波をこの保険医にくわえられ続け、小鳥が啄む様に、数え切れないキスも口に受けると、まるで真綿の中閉じ込められ逃げられないような感覚に、心が弱り気が狂いそうだった。
しまいには本当に葵生川のことが好きになりそうだった。
「明日も今日と同じ時間に保健室に来るんだよ……」
2
朝、いつもの目覚めの朝だ。
よかった。今日はあの夢を見なかった。
…………昨日葵生川に抱き締められた体は、なんだか身軽になったような気がした。
身体はだるいけど、多分気持ちの問題だ。
このままずっと淫夢を見なければいい。
学校に向かい登校すると、廊下でいきなり肩に触れられた。
「おはよう!沼間君!!」
そこに甥彦がいた。
「おはよう」
甥彦は笑った顔をすぐに変えて、真剣な眼差しを向けこっちを見た。
「こないだは叫びながら走ってどっかいっちゃってさ。ずっと心配だったんだ……」
そういえばそうだった。あの葭葉ん時以来だ。まともに会話するのは。
「心配してくれてありがとうな。大丈夫だよ、もう」
「本当か?ならいいけど」
俺が笑うと多少疑いながらの表情で、甥彦も笑う。
すっと手が伸びてきて俺の耳を掴まれた。
「何かあったらなんでも俺に相談してくれ!君と俺は……友達なんだから!もっと頼らなきゃ!俺なりに考えて、考えて、力になるからさ!」
「あだっ!わ、わかったよ……次何かあったら、必ず甥彦に相談するする!」
「待ってるからな。俺だって、あんなおぞましい事件ばかり起こって、矢本が死んで……、本当だったらずっと寮にこもっていたいくらいだけど、沼間君が通ってるから、俺も学校に通う気になれるんだ!ありがとう!沼間君!」
甥彦は屈託なく笑った。
3
時間になり、まるで催眠に操られたかのように、保健室の扉の前まで来てしまった。
押し殺したい変な期待が、俺の体には俺の意思に反して、ジワリと侵食するように既に生まれていた。
それともこの学校の底知れない闇の恐怖が、自分の中でも誤魔化しきれないまでに膨らみきっていて、今にも腫れた心臓がはち切れそうなほどで、それを葵生川が与える刹那的な快楽の中に紛らわし、心を逃がそうとしているのかもしれない。
唾を飲み込み、保健室の扉を開けようとしている。
音を立てレールを引き扉が滑った。
だが、目の前の保健室には、誰もいない。
電気もついていない。
「先生?」
あたりは静音に包まれている。
「誰か………」
気配が無い。
ステンレスの銀の医療ワゴン。コットンの詰められた滅菌瓶。
はじの微かに空いた窓と閉められたカーテン。
「いません……か………」
誰もいない。何も返ってこない。
キョロキョロと薄暗い保健室を見渡すが
……ふと、可動式のメディカルスクリーンに囲まれた医療ベッドスペースの辺りに、違和感を覚えた。
人の影?
人のような盛り上がる影。
怖気付きながら、間仕切りカーテンの布を手で暖簾をくぐるように横に払うと……
血が、壁に絵を描いていた。
六芒星の星がペンキのように描かれる下には、人の死体があった。
白衣を着て、髪型から、それが葵生川だと一目で分かるが、その顔は、片目、目玉がブラ下がっており、もう片方の眼窪には眼球すらついていなくただ穴がぼっかりと開いている骨だった。
顔のほぼほぼが皮膚と肉の剥がれた白骨状態で、鼻や唇の肉などは無かった。
「うわあっ!!……なっ……なっ……!!なっ…………!!」
何故だ!!
何故、葵生川までもが!!
俺は思わず背後を振り向く。辺りを警戒して毛を逆立て見回す。
まるでこの瞬間も、誰かがこの保健室に潜んで、猛獣のように俺の背を切り裂こうと、狙っているんじゃないかと怯えた。
俺はすぐさま職員室に走り、残っている十人ほどの教師達に告げた。
見に行く先生と、椅子に座らせた俺を心配そうについている先生。
突然デスクの内線が音を立てた。
側にいた教師は受話器を取り、ハイ、ハイ、と何やら会話をして
俺に向き直り
「沼間君……理事長が呼んでる」
と告げた。
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